元阪神ノーノー投手・川尻哲郎さんはコロナ禍に新橋で居酒屋を「関東にも虎党が気軽に寄れる店を」

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川尻哲郎さん(52歳)元プロ野球投手

 JR新橋駅烏森口から徒歩2分。1階にY!モバイルが入るビル5階の「TIGER STADIUM(タイガー スタジアム)」が川尻さんの“城”だ。

「もともと、『虎尻』という居酒屋を昨年12月にオープンしましてね。ところが予想以上にファンの方々がお越しくださるので、密を避けるため今年2月に思い切って1.5倍、約21坪の広さのここに引っ越して、店名も変えて気分一新。再スタートを切った、ってワケです」

 10席のバーカウンターと30席ほどのテーブル席。75インチの超大型モニター1台がドーンと壁にかけられ、45インチモニターが3台並ぶ。

「関西だと、野田浩司さん、中込伸さんら、元阪神選手の店があちこちにあるんです。でも関東にはない。じゃあ阪神ファンが気軽に寄れて観戦しながら楽しめる店を、と。それがきっかけです」

 近所には元巨人楽天で活躍したデーブ大久保さん経営の居酒屋「肉蔵でーぶ」もあり、セカンドキャリアの阪神・巨人戦も熱い。

「ただ、4回目の緊急事態宣言で8月末まで完全休業中。9月1日に再開の予定です」

 あらら? ということは、日刊ゲンダイの取材のためにわざわざ出勤?

「ええ。ほかに用事もあったので僕は構いません。自宅は高崎市(群馬県)なので車で2時間ほどでしたけどね(笑い)」

 都内中野区生まれ。高崎市に自宅があるのは、BCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスで13年にコーチに就任し、14、15年シーズンは監督として采配を振るっていたから。14年にはチームを5年ぶりの優勝に導き、指導力に定評がある。

 常連客の一人、40代のビジネスマンがこう話す。

「川尻さんの解説が面白い。ご本人は『解説ちゃうわ。独り言や』と笑ってますが、結構、采配や配球の読みが当たるので、野球ファンにはたまらない魅力です」

 8月13日から後半戦がスタートしたプロ野球セ・リーグは阪神が首位で折り返し、2005年以来、16シーズンぶりのリーグ優勝、1985年以来縁がない日本一を目指す。虎ファンの期待はすこぶる大きい。そんな中、90年代の“暗黒時代”に阪神を支えたノーヒットノーラン投手が都内で居酒屋を経営している。川尻哲郎さんだ。コロナ禍、店の経営状態やいかに?

ノーノー前夜「実は、しこたま飲みましてね」

 さて、川尻さんといえば、98年5月26日の倉敷マスカット球場での対中日戦。現阪神の矢野燿大監督とバッテリーを組み、見事、ノーヒットノーランを達成した。

「実は、前の晩に宿泊先の岡山市内でしこたま飲みましてね。いつもなら『先発の前夜は深夜1時まで』って決めてるのに、気がついたら早朝5時すぎ。外が明るくなってました(笑い)」

 ナイターだったので昼すぎまで爆睡。ウオーミングアップで汗を流すと、意外なほど体はスッキリとした。

 そして迎えた先発。八回まではポンポンと得意のジャイロボールや変化球で打ち取り、迎えた九回2死。最後のバッターは神野純一選手で、「あと一人」の大コールが球場に渦を巻いた。

「阪神では73年7月1日の対巨人戦で、上田二朗先輩が長嶋茂雄さんに『あと一人』で打たれてますからね。マウンドでの守護神、ロジンバッグを触りながら『慎重に慎重に』と。7球目でサードゴロに打ち取れて、本当に良かった」

 この年は、シーズンオフにサミー・ソーサ、バリー・ボンズらを擁する米国チームと日米野球で対戦。第4試合で九回1死まで投げ、初の完封勝利目前で長嶋茂雄監督が交代を告げたことが話題になった。

「そもそも西村龍次選手が先発予定でした。でも肩痛で急きょ僕にお鉢が回ってきて、『とりあえず五回まで』と」

 それが、簡単に五回が終わり、その勢いで七回まで投げてノーヒット。

「僕はお役御免のつもりでいたら、古田敦也さんと清原和博さんが、『完封はいないから監督にもう少し投げたい、と言ってこい』と。それで直訴して、『ピンチになるまで』と九回まで投げさせてもらったんです。で、ワンアウト後に死球とヒットで一、三塁。だから長嶋監督には不満なんてありません。結局、イチローさんの犠牲フライの1点で僕が勝利投手になったんですから。万々歳ですよ」

 9月4日には、元阪神・亀山努さんのトークイベントを予定。問い合わせはお店へ。

(取材・文=高鍬真之)

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