海外ミステリー文庫本特集

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「誰がわたしを殺したか」デビー・ハウエルズ著、真崎義博訳

 ページをめくれば、まさにそこは事件現場。迷宮入りに思えるような複雑な事件でさえ、お気に入りの謎解きの名手の推理にかかれば、絡み合った因果関係を分かりやすく整理して、鮮やかに解決の糸口を見つけてしまう。そんな爽快感が味わえる海外ミステリーをご紹介!

 ある日、まだ18歳の女子学生ロージー・アンダーソンが突然行方不明になった。ロージーと同じ学校に通う娘を持つ庭園デザイナーのケイトは、取り乱すロージーの母親をなだめつつその行方を案じていたが、残念ながらロージーは森の奥で冷たくなった姿で見つかった。どうしてロージーは死んだのか。ロージーの死に納得できなかったケイトは、次第に思いもしなかった真実を掘り起こしてしまうのだが……。

 英国ミステリー界に現れた新鋭作家によるサスペンス小説。語り手ケイトによる事件を追及していく視点と、死んでしまったロージーが死の瞬間から過去へとさかのぼって独白していく視点の2つが交互に描かれることによって、少しずつ読み手にも真相が見えてくる構成になっている。

 娘を持つ母親としての心情や、外側からは見えにくい家庭内の家族関係、被害者を取り巻く無責任な世間の目などが盛り込まれ、リアリティーあふれる物語になっている。

(早川書房 1320円+税)

「ハイキャッスル屋敷の死」レオ・ブルース著、小林晋訳

 ニューミンスター・クイーンズ・スクールの歴史教師であるキャロラス・ディーンは、ある日ゴリンジャー校長から奇妙な依頼を受ける。なんでも、校長の友人である貴族のロード・ペンジが謎の脅迫者に命を狙われているので、脅迫者を突き止めてほしいというのだ。

 殺人事件の推理ならともかく、自分に依頼するよりもボディーガードを雇った方がいいと断ったキャロラスだったが、ロード・ペンジのガウンを着た秘書が本人と間違われて射殺されるという事件が起こってしまう。仕方なく事件現場に向かったキャロラスは、その事件のなんともいえない不自然さに気づく。

「死の扉」「ミンコット荘に死す」「ジャックは絞首台に!」「骨と髪」などで人気を呼んだアマチュア探偵キャロラス・ディーン・シリーズの邦訳第5弾。気乗りのしない脅迫事件に巻き込まれた主人公の鋭い観察眼とそれゆえの苦悩が読みどころ。本格英国ミステリーならではの雰囲気を楽しめる。

(扶桑社 980円+税)

「視える女」ベリンダ・バウアー著、満園真木訳

 息子ダニエルが失踪してから4カ月、何の手がかりもないまま息子の帰りを待ち続けている母親アナは、周囲に奇異な目で見られながらも、道路のコンクリートに残った息子の足跡をきれいに磨き上げることをやめられないでいた。もはや誰の目から見ても狂ってしまったアナだったが、ある日最後の手がかりを求めて、ある霊媒師のところへと足を運ぶ。そこでは息子の行方を捜してほしいという切実な願いは断られてしまったのだが、それからというもの失意のアナには不思議なものが見え始める。

 一方、別の子どもの失踪事件を追っていた刑事マーヴェルも、捜査の手がかりを求めてアナと同じ霊媒師のところにやってきた。少し前、列車に飛び込みそうになっていたアナを偶然助けていたマーヴェルは、詐欺まがいのうさんくさい霊媒師を怪しみつつも、アナの不思議な力に興味を持ち……。

 デビュー作で英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞を受賞した著者による6作目のミステリー。人間味あふれる登場人物の心理描写が秀逸。(小学館 830円+税)

「死神遊び」カミラ・レックバリ著、富山クラーソン陽子訳

 ある出来事で一人息子を失ってしまったエッバとモッテン・スタルク夫婦は、再スタートを切るためにエッバの故郷であるヴァール島の古い屋敷に引っ越してきた。老朽化した古い住まいを自分たちでリフォームしつつ、過去の悲劇から立ち直る計画だったのだが、ある日それを頓挫させるかのように屋敷の玄関先で火事が起こる。幸いふたりは無事だったものの、ただの火事ではなく放火なのではないかということも分かってきた。

 捜査にあたったターヌムスヘーデ警察署のパトリック刑事は、この火災が35年前に起きた奇妙な事件と関連があるのではないかと思い始める。パトリックの妻で小説家のエリカも、パトリックが止めるのもきかずに古い事件と今回の放火の関連性を調べ始めたが……。

 スウェーデン発の「エリカ&パトリック事件簿」シリーズの第8弾。スウェーデン社会の事件や現状を風刺した視点が盛り込まれている点も興味深い。

(集英社 1050円+税)

「アメリカの友人」P・ハイスミス著、佐宗鈴夫訳

 貧しい額縁商のジョナサンは、ある日見知らぬ男から多額の報酬を条件に殺人を依頼される。正直でまっとうな生き方をしてきたジョナサンにとって、それは受けるわけもない依頼だったのだが、自分の白血病が悪化して余命いくばくもない状態になっていることを知らされ、せめて愛する家族に少しでも財産を残してやりたいと思い、殺人依頼を引き受けることに。

 しかし、この殺人依頼の裏には、天才的な犯罪者トム・リプリーがいた。彼は完全犯罪のためにジョナサンを利用しつくそうと考えていた。

 本書は世界的なヒット作となり映画化もされた「太陽がいっぱい」で登場したトム・リプリーのその後の物語。

 自己の欲求に忠実なトムが、人間の心理を読みつつ、自らが設定した殺人ゲームに善人を巻き込んでいくことで生じるドラマが描かれ、いつの間にか読み手も、予想外に変わっていくトムの心情に引き込まれていくのが面白い。

(河出書房新社 880円+税)

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