坂爪真吾
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坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

痴漢の多くは勃起していない

公開日: 更新日:

「男が痴漢になる理由」斉藤章佳著 イースト・プレス 1400円+税

 通勤途中の地下鉄駅構内には、今日も「痴漢は犯罪です」「STOP痴漢!」といった啓発ポスターが張られている。

 痴漢を行う男性は「ありあまる性欲を持て余したモンスター」であるから、れっきとした犯罪であることをPRし、厳罰化をすれば、痴漢を行う男性は減るはずだ……という考えが前提にあることがうかがえる。しかし、その考えは本当に正しいのだろうか。

 本書は、世間で大きく誤解されている痴漢の実態を描いた一冊だ。ページをめくるたびに、「痴漢の多くは、よき家庭人である」「痴漢の多くは、勃起していない」といった、「ありあまる性欲を持て余したモンスター」とは似ても似つかない男性像が次々と提示されるため、読者は驚きを禁じ得ないだろう。

 著者は「痴漢は依存症である」と主張する。アルコールや薬物依存と同じように、やめたくてもやめられないのだ。彼らに必要なのは、説教でも啓発でもなく、専門的な治療プログラムである。

 痴漢に手を染める男性たちは、「今週は頑張って仕事のノルマを果たしたから、自分には痴漢をする資格がある」「妻とはセックスレスだから、痴漢をしても許されるだろう」といった独りよがりの思い込みを抱えている。

 こうした彼らの言動は、一般常識に照らし合わせると、到底許しがたいもののように思える。しかし現代社会を生きる男性は、多かれ少なかれ、彼らと似たような独りよがりの思い込みを抱えて生きているのではないだろうか。

 そう考えると、痴漢で逮捕される男性と、そうでない男性との間には、明確な線引きは存在しないのかもしれない。

 本書の読了後、読者は誰もが痴漢になりうる社会であることに気づき、戦慄を覚えるだろう。明日の通勤から、駅のポスターを見る目が変わるはずだ。

【連載】下半身現代社会学考

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