坂爪真吾
著者のコラム一覧
坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

生身の「女の子」としての風俗嬢の声

公開日: 更新日:

「性風俗世界を生きる『おんなのこ』のエスノグラフィ」/熊田陽子著明石書店3000円+税

 性風俗の世界で働く女性の姿は、「刺激的なネタで読者や視聴者の注目を集めたい」と考えるメディアの都合で、あるいは「エッチなことが大好きな痴女であってほしい」といった中高年のおじさんたちの願望やロマンを投影する対象として、良くも悪くも過剰な言葉や極端な表現で語られがちである。

 だが、本書を読むと、それらは実態を反映していないことが分かる。

 首都大学の客員研究員である著者が、実際に都内のデリヘル店の受付スタッフとして働き(!)、7年間にわたって大勢の働く女性の生の声を集め、文化人類学的な視点から分析した力作である。

 性風俗という特殊な世界で働いてはいるものの、彼女たちはあくまで普通の女の子である。「客の要望にできるだけ沿った形でプレーを提供したい」と考える完璧主義者の女の子もいれば、どれだけ傲慢な客に接しても「自分だけは、お客さんを否定しない存在でありたい」と語る子もいる。他の職業で働く女性と同じように、日々の仕事で悩み、同僚から学び、自分の市場価値を高めるための戦略を考える。

 時には「お金が稼げなくなることよりも、お客さんから求められなくなることの方がつらい」と愚痴をこぼすこともある。お客のたたずまいにかわいらしさを感じて、ほっこりすることもある。孤独感を紛らわすために、常連客の滑稽な言動をネタにして、お店の待機部屋でみんなで笑いあったりする。

 そう、「風俗嬢」だの「セックスワーカー」だのといった抽象的な存在は、どこにもいないのだ。いるのは、一人一人の生身の「女の子」である。

 悲惨さだけを強調する風俗嬢の貧困ルポに食傷気味の方には、ぜひ手に取っていただきたい。

【連載】下半身現代社会学考

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    北乃きいが「まるで別人!」と話題…フジ「ぽかぽか」でみせた貫禄たっぷりの“まん丸”変化

    北乃きいが「まるで別人!」と話題…フジ「ぽかぽか」でみせた貫禄たっぷりの“まん丸”変化

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

  4. 4
    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

  5. 5
    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

  1. 6
    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

  2. 7
    静岡県知事選で「4連敗」の目 自民党本部の推薦が“逆効果”、情勢調査で告示後に差が拡大の衝撃

    静岡県知事選で「4連敗」の目 自民党本部の推薦が“逆効果”、情勢調査で告示後に差が拡大の衝撃

  3. 8
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9
    若林志穂vs長渕剛の対立で最も目についたのは「意味不明」「わからない」という感想だった

    若林志穂vs長渕剛の対立で最も目についたのは「意味不明」「わからない」という感想だった

  5. 10
    “絶対に断らない女”山田真貴子元報道官がフジテレビに天下りへ 総務官僚時代に高額接待で猛批判浴びる

    “絶対に断らない女”山田真貴子元報道官がフジテレビに天下りへ 総務官僚時代に高額接待で猛批判浴びる