岡崎武志(書評家)

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6月×日 梅雨入りも間近。束の間の晴天はありがたく外出する。さいたま市別所沼公園へ。ここに詩人の立原道造「ヒアシンスハウス」がある。立原は東京帝大で建築を学び建築事務所に勤めた。1939年に結核で病没。享年24だった。生前、この地に小さな小屋を建てようと図面を引いていた。さいたま市がそれを2003年に実現させた。

 小屋の前のベンチに座って「立原道造詩集」(角川春樹事務所 748円)を読む。風と空と花と少女を歌った抒情詩人にぴったりの建物だ。

6月×日 玄関のポストにゴトリと投函された音がする。出てみると通崎睦美著「天使突抜おぼえ帖」(集英社インターナショナル 2200円)が届いていた。重い本だ。「天使突抜」は京都・下京区に実在する町名。木琴奏者で文筆家の著者は、ここで生まれ育ち、今も住む。古くから職人たちが住む下町。観光客の知らない、人の温もりのある京都についてたっぷりと描かれている。

6月×日 テレビ録画した「こころの時代 ~宗教・人生~」を見る。遠藤周作の遺作となった長編「深い河」について、本作に深い影響を受けた山根道公と若松英輔が2回に分けて語り合う。遠藤が生涯の作家人生を通して問い続けた「日本人にとってのキリスト教」というテーマについて、2人が時間をかけて解説をする素晴らしい番組だった。私はメモを取り、未読だった「深い河」(講談社 858円)と「『深い河』創作日記」(講談社 1540円)を入手した。対話、テキスト、創作日記を並列して重層的な読書体験となった。

6月×日 谷川俊太郎は私にとって最初の詩人。今年91歳になると知り驚く。私の中の谷川さんの印象はずっと変わらない。「人生相談 谷川俊太郎対談集」(朝日新聞出版 935円)は、親しい人生の先輩たちに著者が話を聞いている。古くは1961年。何と相手は父親の谷川徹三。哲学者であり法政大学総長も務めた。谷川は不登校となり高校を中退し大学も行かなかった。「大学くらいは出ておけと言ったのだけど……」と人並みの親らしい発言が微笑ましい。

【連載】週間読書日記

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