「空手」なぜ五輪新種目に? 笹川一族が50年以上トップにいる競技団体の“功罪”

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 東京五輪で新競技となった空手。空手(唐手)発祥の地である沖縄県のホームページによれば、空手は「沖縄の伝統文化」「日本固有の武道」であり、世界の競技人口は1億人以上とされる。世界的な「スポーツ」と言えるが、次の2024年のパリ五輪では野球ソフトボールと同じく正式種目から外れている。もしかしたら東京五輪が最初で最後になる可能性もある。

 そんな空手が東京五輪で正式競技として採用された理由の一つは開催都市提案という開催都市が持つ特権だ。2015年にIOCの新規則として導入され、開催都市の追加種目枠が認められた。この枠を利用して、野球ソフトボール、空手、スポーツクライミングサーフィンスケートボードなど5競技が東京五輪で選ばれた。

■全空連会長は笹川一族

 理由のもう一つは公益社団法人全日本空手道連盟(全空連)の政治力だろう。アマチュア空手を統括する日本の団体は全空連で、会長は笹川堯・元自民党総務会長である。

 公益財団法人としての全空連は1964年に笹川良一氏(財団法人日本船舶振興会創設者)によって設立された。良一氏が初代会長で、二代目の堯会長と57年も全空連のトップが笹川一族。また堯氏の孫だという善弘氏は副会長だ。手続きを正式に踏んでいるにしてもアマスポーツ団体のトップが同族で57年というのは異例だろう。まるで世襲の同族経営だ。

 全空連の設立当時を知るという関西出身の空手団体関係者(70代)はこう話す。

「笹川良一のボディガードが空手をやっていた。それがきっかけで笹川が空手業界をまとめようと考えたと聞く。競艇のカネがある笹川にしてみたら、空手団体などたやすいものだったのだろう。しかしまとめるといっても、結局空手は日本空手協会のほうが大きいし分裂したままだ。私は笹川がまとめるというので抜けた」

 空手の四大流派は松濤館流、剛柔流、糸東流、和道流。松濤館流の公益社団法人日本空手協会(協会)が空手団体としては日本最大で、設立時期も1948年と古い。協会会長を田中角栄が務めたこともある。しかし「協会」はプロアマ選手含む団体のため、アマ団体である全空連とは棲み分けをしており、各流派とも全空連とは協力関係にある。

■菅氏が議連会長など関係者は自民だらけ

 そのような笹川一族がトップでいる全空連だからこそ、五輪での正式種目化は実現できたとも言える。

 2013年9月に東京五輪が決定した後の全空連の動きは迅速だった。翌14年6月にはまず国会議員による空手道推進議員連盟が設立される。設立集会の目的は20年に開催される東京五輪での正式種目化だ。設立集会の様子はネット上に動画が上げられており、発起人となった竹下亘・自民党元総務会長は設立集会で「ご存じの通り、笹川堯先生が日本の空手の大親分でございまして、笹川先生におまえつくれと言われて今日にいたったというのはそのとおりでございます」と挨拶。

「大親分」の笹川堯会長はこう抱負を語っている。

「私は全空連の副会長は25年、会長になりまして20年経つわけです。われわれは極真の方だろうが、どの流派だろうが拒絶はしない。たまたま私のオヤジ(笹川良一)がばらばらだった各流派を全部まとめて、全日本空手道連盟を創立して、私が二代目です。私の目の黒いうちにぜひともオリンピックに入りたい」

 世襲議員だらけの自民党の集会では公益財団法人を親子二代で50年近く務めていたことなど誰も違和感を抱かないらしい。

 この会合で議連会長に菅義偉官房長官(当時、現総理)が就任した。法政大学空手部(剛柔流)出身。菅氏は15年、対面した沖縄県の翁長知事(故人)から沖縄の自治運動を抑圧した「キャラウエイ高等弁務官と重なる」とグサリとやられたことがある。そんな菅氏が、沖縄県が空手振興課までつくっている空手を推進する議連会長とは皮肉な感じもある。また議連の最高顧問には高村正彦氏、石破茂氏と党重鎮が並んだが、議連のメンバーは自民議員のみだった。

 その後も都議会自民が議連を立ち上げ、安倍総理(当時)を始めとした関係大臣への陳情もトントン拍子。東京オリパラ競技大会組織委員会会長の森喜朗・元総理や小池都知事も自民出身。見事に自民関係者だらけの中で空手は五輪新種目となった。

武道の競技化への懸念も

 こうして空手は五輪種目にもなり競技化や国際化が進められているが、「武道」が競技化することへの懸念は根強い。武道の一つ、剣道は国際化や競技化に距離を置き続けていることは知られている。有段者約197万人を擁する全日本剣道連盟はホームページで次のような見解を示している。

<全剣連は、このような日本独特の文化・武道である剣道をさらに普及させていきたいと考えていますが、一方、剣道の普及とは、単に剣道人口を増加させたり、試合を数多く開催することではありません。正しい普及とは、日常の稽古や試合という競技の剣道を通じて、武士の精神を多くの人々に伝えることです。単なる競技として広めることではないのです>(「剣道に関する全剣連の見解」)

「武道」に対する考え方の重みを感じる。団体を「まとめて」普及させることに違和感を持つ団体もある。ある在日朝鮮人系空手団体の関係者も「うちの団体はうちの空手をやるだけだ。大会によって外国人に有利になるようにルールが変更されたりするのもどうか。極真会館の大山倍達も笹川良一に頼まれたが全空連に入らなかった」と話す。空手を修練する人が世界的に増えることと、国際的な競技スポーツになることは似て非なるものなのだ。

 日刊ゲンダイDIGITALは、7月29日に全空連には会長の“世襲”や笹川氏の親族についてメールフォームとFAXで質問をしたが、1週間経っても回答は得られなかった。

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