元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<最終回>ガムシャラにフットサルに取り組みながらサッカーの原点を思い出している

公開日: 更新日:

サッカーより目が離せないね。バスケットボールみたいに展開が早いし」

 10月8日、日本フットサルリーグ「Fリーグ」1部のYSCC横浜-湘南戦。タレントの加藤ローサさんは、夫で元日本代表MFの松井大輔がフットサルデビューする姿を生観戦し、こんな感想を口にしたという。

「子供たちには『パパ、もっと出てよ』と言われましたけど、家族には概ね好評でした」

 松井本人も、新たなチャレンジに手ごたえをつかんだ様子だ。

 ただ、YS横浜の中で完全なプロ契約選手は、松井1人。他のメンバーはスポンサー企業で働いたり、大学に通ったりする兼業選手が基本。仲間たちの厳しい現実を目の当たりにした彼は、フットサル全体の地位向上に努める構えだという。

 ◇  ◇  ◇

 1993年発足のJリーグは、約30年がかりで1~3部に拡大。全国57クラブには総勢1600人以上のプロ選手が所属する。

 下部リーグのJ3には、サッカーと仕事を掛け持ちする選手もいるものの、基本的にはサッカーだけで生活できる体制が整っている。

 07年発足のFリーグは1、2部制・20クラブで構成。総選手数は340人程度だが、クラブの年間予算が1部でも8000万円~1億円ほどの運営規模のため、完全なプロとして生計を立てられる人間は、ほんの一握りと言っていい。

「YS横浜は午前6~8時の早朝練習が基本ですが、トレーニング後には配達の仕事に行ったり、フットサル場の運営スタッフとして働く選手たちがいます。そういうハードな日々を乗り切れるのも、フットサルに対する情熱があるから。僕自身も学ばされることばかりです」

 海外5カ国を渡り歩き、さまざまな環境を見てきた松井は神妙な面持ちでこう語っていた。

 YS横浜は選手たちのプレー環境をより良いものにするため、個人スポンサー制度を取り入れている。前田佳宏監督の練習着に「KUBO」「青木」といった個人名が入っているように、各スタッフや選手をサポートする企業や個人が存在。彼らの支援金が個人個人のフットサル活動の一助になっているのだ。

「ここに来て、個人スポンサーの存在を初めて知りました。ダイレクトに支えてくれる人がいれば、僕らプレーする側は励みになる。みんなの環境が少しでもよくなるのはいいことですね」と松井も目を輝かせる。

「近々A級を取りに行くつもり」

 彼の加入で新規スポンサー企業が名乗り出ることも考えられる。松井大輔効果が競技面でも経営面でもプラスに働けば、YS横浜にとって朗報だろう。

「練習や試合の時はみんな揃ってゴールやボールを準備しますし、終わった後の片付けも当たり前。床のモップ掛けもしっかりやって気持ち良く終わる形で取り組んでいます。Jリーグの時はホペイロさんがいて用具の管理もやってもらっていたので、サッカーの原点を思い出しました」

 04年にフランス2部ルマンに初めての海外移籍をした時も、ボコボコのグランドにプレハブのような小さいクラブハウスだった。決して恵まれた環境とは言えなかった。

 それでも、アフリカから来た面々は「俺は絶対に成り上がってやる」「スターになって大金を稼ぐんだ」と、目をぎらつかせてボールを蹴っていた。

「当時の僕も野心と向上心に満ち溢れていた。あの頃のようにガムシャラにフットサルに取り組もうと改めて思った。今までサッカーでいろんな人に与えてもらったことを、フットサルという新たな世界の中で還元していきたいと強く感じています」と松井は力を込める。

 フットサルで燃え尽きることができたら、初めて「引退してもいい」と思えるのかもしれない。 

 が、その日はまだまだ先になりそうだ。

「フットサルは1対1の仕掛けが多い。久しぶりに喜びを感じてます。もしまた海外からオファーが来たらぜひ行きたいですね」と笑うくらいだから、やはり彼は心底ボールを蹴ることが好きなのだ。

「いずれは指導者になることも考えてます。JFA公認B級コーチライセンスはすでに持っていて、近々A級を取りに行くつもり。いろんな経験が将来の役に立つでしょうし、今は目の前のことに全力を注ぎます」

 前田監督が言うように、フットサル日本代表としてW杯に出る日は来るのか。それともフットサルと経営母体が同じJ3・YS横浜のユニフォームを着て二刀流プレーヤーの道を歩むのか……。

 波乱万丈な松井大輔の生きざまから目が離せない。(おわり)

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