野球動作解析のスペシャリストが明かす ロッテ佐々木朗希「完全試合」達成の秘密

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筑波大・川村卓准教授 直撃インタビュー

 筑波大の硬式野球部監督を務める川村卓准教授(51)が、10日のオリックス戦で19奪三振を含む完全試合を達成したロッテ・佐々木朗希投手(20)のメカニズムを本紙に明かした。動作解析の第一人者である同准教授は、佐々木朗の母校・大船渡の国保陽平監督の恩師でもあり、現在は最速164キロを誇る剛腕を高校時代から見ていた。佐々木朗の長所として2つのポイントに着目。将来的な170キロ、大谷翔平(エンゼルス)超えの可能性にも言及した。

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 ◇  ◇  ◇

 ──完全試合は予想していた?

「去年以上の結果を残すとは思っていましたが、ここまで早い時期に、それも完全試合とは想定外です」

 ──投球を初めて見たのは?

「高3夏の岩手大会後ですね。U18の日本代表としてW杯に参加するということで、大船渡の国保監督が筑波大出身ということもあって、夏休みに2泊3日で本学で練習をしました。ハイスピードカメラを設置して彼(佐々木朗)のブルペン投球を見てみると、衝撃を受けたことが2点ありました」

 ──衝撃?

「球速は155、156キロほど出ていましたが、それ以上に驚いたのが回転数(1分間換算)で、2500~2600もありました。高校生だと好投手でも2100~2200。プロの投手なら普通は2300、好投手になると2400ほどになります。2500となると、探すのが大変というレベル。それが(佐々木朗は)2500が普通でした」

 ──球の回転数が多いと、どんなメリットが?

「打者から見ると、角度がついたボールが浮き上がってくる感覚になります。これは高校3年時の話。今では球速が上がっているので、さらに回転数が上がっている可能性もありますね」

 ──もう一つは?

「最大の特徴といっていいのがリリースポイントの高さです。一般的には体の前でボールを離した方がいいとされますが、(投球動作解析が専門の)私から見ても、普通の投手であれば、はるか上に抜けてしまうほど高い位置でリリースしています。もしウチ(筑波大)の投手がこの位置で離したら、打者の頭を越えてしまうでしょう。そんな高い位置から、すごい角度のボールを投げられる。背中の筋肉をうまく使っているからだと思います」

「ボールを加速させるタイミングの取り方が絶妙」

 ──背中ですか?

「バレーボールのスパイクを打つようなイメージで、腕を振った勢いを背中の筋肉で止めて、そこから手が返る。背中から腕をうまく連動させて、ボールを加速させるタイミングの取り方が絶妙にうまいんです」

 ──佐々木朗は身長192センチで腕も長い。約25センチのマウンドの高さもあるので、かなりの高さから投げ下ろすことになる。

「打者は見たことのない高さからボールが来ることになります。そこから浮き上がってくるストレートに、もう一つの特徴である落差の大きなフォークボールが加わると、最強の組み合わせになる。ただでさえ、彼のフォークは150キロ近い球速で落差も尋常じゃない。そこに角度がつくから、プロのトップ選手たちもストレートと見分けられないのです」

 ──プロの打者も苦労する要因だと。

「プロ野球選手の特徴は、ストライクゾーンのボールなら、2巡目や3巡目には当ててくるし、安打にできること。彼の場合は、ストライクゾーン内の変化球でも空振りが取れる。これはリリースポイントに理由があると思います」

 ──運動能力は高い?

「大船渡の国保監督が言っていましたが、バレーボールやバスケットボールもうまいそうです。普通、あれぐらい長身だと体をうまく使いこなせないケースが多いのですが、彼は足も速いし、しなやかさも兼ね備えています」

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「170キロ&大谷超えの能力を持っている」

 ──体が柔らかいのは投球と関係ありますか?

「あります。もともと硬かったけど、中学の時から毎日ストレッチを続けていたら柔らかくなったそうです。股関節も柔らかいから左足が高く上がりますよね。足を上げた状態でも軸がぶれません」

 ──それはなぜ?

「見えない部分ですが、体幹が強くなって足元がしっかりと固定されたことで、腕の角度が安定して、きれいなバックスピンのボールが増えた。高校時代は細いなと思いましたが、尻回り、太もも回りが大きくなり、しっかり下半身を使って体重が乗るようになった。高校時代は手が体から離れていて肩や肘に負担がかかっていましたが、腕が頭と近いところで振れるようになってきました」

 ──川村准教授の教え子である大船渡の国保監督は岩手大会の決勝で佐々木朗を温存して物議を醸した。

「難しい判断だったと思いますが、あの時のベストは何か、彼の将来を考えての判断だったと思います。勉強熱心で選手ファーストの監督ですから。ただ、今こうなることまでは予想していなかったと思いますよ」

 ──日本人最速は2016年に当時・日本ハム大谷翔平(現エンゼルス)がマークした165キロ。投手として大谷を超える可能性は?

「能力として超えていくものは持っています。下半身が安定したことで球速も順調に伸びていて、170キロ到達も夢ではありません。ただ、打者を抑えるために、そこまで速いボールが必要なのか。今は8割から9割の力で投げているように見えますが、全力で投げなくても十分速い。今の8割くらいの力でも、ますます速い球を投げそうで末恐ろしいですけど……」

 ──球速を追い求め過ぎると、どんなリスクが?

「体への負担が大きくなります。肩、肘はもちろん、背中をうまく使って投げるため、腰にも過度の負担がかかります。球速より、まずは一年を通じて先発ローテーションを守って欲しい。故障だけが心配です」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)

▽川村卓(かわむら・たかし) 1970年5月13日生まれ、北海道出身。札幌開成高では主将で3年夏に甲子園出場。筑波大でも主将を務めた。卒業後は浜頓別高で監督を務め、00年から母校の筑波大監督に就任。大学では体育会系の准教授でコーチング学や野球方法論を専門分野とする。

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