【現地ルポ】阪神の“お膝元”を東京出身の新人記者が歩く 18年ぶり「アレ」で盛り上がる?

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 12球団で最も熱狂的なファンのいる、いかにも恐ろしそうな阪神のお膝元に潜入だなんて……。だって幼い時、東京ドームでジャビット君を足に紐でくくり付けて引きずる阪神ファンを見てるし……。新大阪駅の改札で「ピンポーン」となった時は、ICカードのタッチが甘かっただけなのに「機械に東京人だと見破られた!」なんて被害妄想にも駆られた。

 しかし、うじうじしていても仕方がない。まずは阪神百貨店の阪神梅田本店にある球団直営のグッズショップへ。午前10時に開店してまだ5分だというのに、既に店内には10人前後の客が。店員さんに「働いてる皆さん全員阪神ファンなんですか?」と聞いてみると「そらそうですよ!」との答え。そりゃファンじゃなきゃ応募しないか。

■期待と不安が入り交じる

 お次は「日本一早いマジック点灯式」でおなじみの尼崎中央三丁目商店街。今年も開幕を前にした3月29日に「マジック143」のプレートが掲げられた。2002年から始めて今年で21度目になる恒例行事。着くや否や、阪神優勝祈願の垂れ幕とスピーカーから流れる“六甲おろし”がお出迎え。なかなかの活気だ。商店街振興組合の理事長・寺井利一さんに話を聞いた。

「優勝セールの準備? 言い出すと負けるジンクスがあるのでまだやってないです(笑)」

 なんとも冷静な意見。阪神と言えば、1950年の2リーグ分裂以降、リーグ優勝5回、日本一1回。つまり、裏切りの歴史だ。期待と不安の入り交じるファンは冷静に盛り上がるということか。

“性地”福原の阪神割引は…

 せっかくなので、関西随一の風俗街・福原へも足を延ばす。ここは100軒に及ぶ風俗店が軒を連ねる“性地”だ。かつて「阪神が勝った次の日は割引」なんて店があったらしいが、本当か。客引きのお兄さんに聞いてみた。

「昔はありましたね。女の子の源氏名がみんな、掛布とか岡田とか真弓とか阪神の選手の名前なんて店もありました」

 既に閉店していたようで、残念である。

 夕方になり、いよいよ“聖地”甲子園へ向かうが、その前に右翼スタンドの向こう側にある素盞嗚神社にお参り。境内には星野仙一元監督直筆の文字が刻まれたボール形のモニュメントや、岡田監督の寄贈により建立された野球塚も。神社の方に話を聞く。

「数年前に佐藤輝明さんが入った時に彼の調子が良くて、ファンも“負ける気がしない”と凄かったじゃないですか。それが夏にガタッと。今はちょうどそういう時期じゃないですかね」

 またもや冷静な意見で面食らう。神社の方が「これは絶対に他で売ってない」という“タイガースお守り”を購入し、リュックに装着。いざ、甲子園へ。こえー。

首位攻防DeNA戦で「このデナが!」

 この日(7月12日)は前半戦のヤマ場となったDeNAとの首位攻防戦の2戦目で、相手の予告先発はバウアー。元メジャーのサイ・ヤング賞投手を打ち崩してやろうと、試合開始前から球場周辺は熱気に包まれていた。球場外の広場で家族3人全員がタイガースのユニホームに身を包んだ阪神ファンに声をかけた。

「岡田監督になってからの盛り上がり? そりゃー違いますよ! 矢野監督が負けてもイライラするだけだったけど、岡田監督で負けたら納得できます!」

 貴重な阪神ファンの生の声だ。岡田監督になってから例年以上に客が増えているということは、球場周辺の店の人からも聞かれた声だ。

 売店で買ったタオルやマスコットバットを身に着け球場に足を踏み入れると、飛び込んできたのは阪神ファンで一面真っ黄色に染まったスタンド。擬態しておいてよかった……。

 一進一退の攻防を繰り広げていた試合は、五回に牧秀悟のツーランで2点ビハインドに。「この“デナ”(DeNAのこと)が!」と絶叫し、牧を恨めしそうに見つめる阪神ファンの顔が忘れられない。

 バウアーの粘投もあり虎党には厳しい状況が続く。喫煙所に行くと、隣にコワモテの阪神ファンおじさんが。刺しゅう入りの特攻服のような格好。もはや恐怖であるが、こんな面白そうな人に声をかけなければデスクに怒られる! 意を決して直撃!

「2点差? 厳しいですけど、まだあきらめてないんで。一緒に頑張りましょう」

 去り際にはあちらから手を差し出してくれて固い握手。なんだ、いい人じゃないか……。

 反撃を待つ外野スタンドの喫煙所は重苦しい雰囲気であったが、八回に森下翔太が同点のツーランを放った瞬間、喫煙所のボルテージが爆発。ファン同士で声を張り上げハイタッチ。思わず記者もハイタッチに参加。阪神ファンでもないのになかなか楽しくなってきたぞ。

 終盤の九回1死満塁の場面で、打席には八回に同点本塁打を放った森下翔太。場内の盛り上がりはまさに最高潮で、思わず記者も隣に座っていた人に「森下君なら決めてくれますよ!」といっちょまえに阪神ファン面。センターにサヨナラ犠飛を放った瞬間、ファンは総立ちになってハイタッチの嵐。劇的な幕切れを迎えた球場の一体感たるや、想像のはるか上をいくものだった。大満足で甲子園を後にすると場外でさらに盛り上がる虎党たち。タイガースの旗を振って、六甲おろしを大合唱。数日前の私なら恐怖で震え上がっていたことだろう。

元阪神投手の焼き肉店へ

 試合後は球場近くにある元阪神投手の中込伸さんが経営する「炭火焼肉 伸」に突撃し、阪神ファンに囲まれながらひとり焼き肉を敢行。カルビと牛タンを注文し、いざ実食。

 うまい。うますぎる。途中、90年代の阪神暗黒時代を支えた中込さんが先輩の岡田監督について話してくれた。

「岡田さんは本当に野球が好きで、頭の中はいつも野球。若手の時に岡田さんの部屋に呼び出された時も、野球の話。プロとしての投球の駆け引きを教えてもらった。監督としてどうか? 阪神の監督ってのはファンや会社にあれこれ言われるが、それに負けず、あれだけ自分のやりたいことをやり通せるのは岡田さんくらいじゃないか」

 なるほど。自分を貫き、ぶれない監督。それこそが、岡田監督が人を惹きつけてやまない理由なのかもしれない。

 最後に、せっかくなので地元の阪神ファンに聞いた佐藤輝明についての声もご紹介。

「サトテル? 地元のファンはみんなあきらめてると思いますよ」

「サトテルはもういいんじゃないですか? 僕らもう十分我慢しましたよ……」

 頑張れ……サトテル……!

(取材・文=橋本悠太/日刊ゲンダイ)

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