「江戸のジャーナリスト 葛飾北斎」千野境子著

公開日: 更新日:

 人気浮世絵師として世界中で名高く、その作品は今なお注目を集めている葛飾北斎。元新聞記者の著者は、好奇心全開で常に新分野に挑戦し続けた北斎を絵師としてだけでなく、ジャーナリストとしてとらえた。江戸期という鎖国下で海外渡航もできなかった時代、北斎はオランダや中国、朝鮮半島などの世界に対する強い関心と、物事を俯瞰(ふかん)して観察する冷静な目を持っていた。本書は、生い立ちから90歳で大往生を迎えるまでの北斎とその作品を振り返りながら、ジャーナリスト・北斎の姿を描く。

 北斎は75歳に発表した「富嶽百景」で「来朝の不二」として朝鮮通信史を描いた。同じ題材で大ヒットした歌川広重の「東海道五十三次」が風景の美しさを描くことに注力しているのに対し、北斎は絵巻物などの資料を漁り、当時の庶民の娯楽の対象だった朝鮮通信使を題材として取り入れている。時代の先端を行く彼は、西洋画法にも挑戦し、晩年には油絵にも興味を持っていたというから驚きだ。

 ジャーナリストという側面から北斎の絵を見直すと、日々新たに起こる出来事に迫ろうとした彼の姿が見えてくる。

(国土社 1540円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  2. 2
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  3. 3
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  4. 4
    ロピア(下)埼玉の上場スーパー「スーパーバリュー」買収で“変身”した

    ロピア(下)埼玉の上場スーパー「スーパーバリュー」買収で“変身”した

  5. 5
    伊藤信太郎環境相は“ボンボン”2世議員…六本木の大豪邸、幼稚舎から慶応育ちで「弱者の気持ち」分かるワケなし

    伊藤信太郎環境相は“ボンボン”2世議員…六本木の大豪邸、幼稚舎から慶応育ちで「弱者の気持ち」分かるワケなし

  1. 6
    補選トップ当選の酒井なつみさん、政治って困窮者を守るためにあるんじゃないの?

    補選トップ当選の酒井なつみさん、政治って困窮者を守るためにあるんじゃないの?

  2. 7
    “エッフェル姉さん”は何しに豪州・韓国へ? GWに再び海外視察、松川るい事務所を直撃した

    “エッフェル姉さん”は何しに豪州・韓国へ? GWに再び海外視察、松川るい事務所を直撃した

  3. 8
    巨人・大城卓三が今オフ国内FA権行使か…監督交代で評価と立場が一変、出場数も激減

    巨人・大城卓三が今オフ国内FA権行使か…監督交代で評価と立場が一変、出場数も激減

  4. 9
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  5. 10
    「金」相場は歴史的な高騰に沸くけれど…次なる投資先に銀・プラチナはアリ?

    「金」相場は歴史的な高騰に沸くけれど…次なる投資先に銀・プラチナはアリ?