「二千億の果実」宮内勝典著

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 私の名はルーシー。ずっと樹上で暮らし、枝を掴んでいたから5本の指が開いた。ある時、イチジクの実を見つけ腕を伸ばしたら木から落ちてしまった。やがて雨が降り、わたしは土砂に埋もれていった。それから300万年くらいかけて、私の骨は地中で硬い石に変わった。

 私を見つけたのは白い子孫、2人の学者だ。骨を並べ、私が立って歩いていたことに気づいた。脳容積が夏みかんくらいのことも……。

 本書は化石人骨と娼婦の少女「ルーシー」の物語で始まり、中国東北部で終戦を迎え、赤ん坊“i”とともに帰国した女性の足取りを描く「噴火口」、青年となったiと革命家の対話「幻の国」など、登場人物らが緩やかにつながっていく26の短編から成る物語。舞台はアフリカ、南米、中国、東京、時代も戦後や現代などを行き来し、引き揚げ者や2世、9.11のテロなど人類がつくってしまった「歴史」を背景に織り込みながら展開し、人類の足跡をたどる。そして鳥瞰(ちょうかん)された地球上の出来事に、未来はどうなるのか、と考えずにはいられない。

「世界を見極めたい」と世界70カ国を旅した著者が紡ぐ、壮大な物語。

(河出書房新社 2475円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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