「捜索者」タナ・フレンチ著、北野寿美枝訳
主人公のカルは、シカゴ警察を退職してアイルランドにやってきた。なぜ警察をやめたかは短い回想で語られるが、妻と娘とも別れ、いまはアイルランド北部の小さな村で廃屋を修繕しながら暮らしている。
隣人のマート老人は何かとカルの面倒を見たがるし、雑貨店を経営するノリーンは、妹レナとの仲を取りもとうとする。カルはよそ者なので地元の人たちの冷たい視線を感じることはあるけれど、まあなんとか平穏に暮らしている。アメリカで暮らしている娘とは週に1度、電話で話をしているし(娘が幼いときにぬいぐるみで遊んでいたことを思い出して、町で買った羊のぬいぐるみを大人になった娘に送ったら受け取ってくれるだろうかと思い悩むところはいじらしい)、取り立てて不満はない。行方不明の兄さんを捜してくれ、と地元の子供に頼まれるまでは。
というわけで、カルの調査が始まっていくという話である。この手の小説は村の人々が何かを隠していて、それが徐々に明らかになっていくもので、これも例外ではないからその意味で驚きはない。
しかし、この長編の美点は他にある。悠然とした筆致がまずいいし、キャラクターの造形がどれも素晴らしいのだ。さらに特筆すべきは、謎を解いたところで真の解決にはならないという構造だ。大切な人を失った心の傷をどうやって癒やすのか、との命題に正面から向き合うのである。だからラストで熱いものが込み上げてくる。
(早川書房 1782円)