「渚の螢火」 坂上泉著
第1作は、西南戦争を描いた松本清張賞受賞作の「へぼ侍」、第2作は昭和29年の大阪を舞台に、自治体警察と国家地方警察の対立を背景にした「インビジブル」(日本推理作家協会賞を受賞)と、質の高い作品を書いてきた坂上泉、待望の第3作である。
今度の舞台は沖縄だ。時は、1972年の春。本土復帰直前である。沖縄に流通している米ドルと日本円を交換するために回収した米ドルのうち、100万ドルを強奪される事件が勃発する。捜査に当たるのは、琉球警察の真栄田太一警部補を班長とする極秘チーム。なぜ極秘かというと、この不祥事が日米両政府に知られる前に解決したいからだ。
日本政府は沖縄返還交渉で、円と交換した米ドルを完全な状態で欠損なくアメリカ側に引き渡す約束をしている。それを履行できないとなれば、高度な外交紛争に発展しかねない。日本政府にまで秘密にするのは、琉球政府がずさんであると指摘されれば第2の琉球処分にもなりかねない。
というわけで彼らの捜査が始まっていくのだが、個性的な面々のそれぞれのドラマが活写されるので(琉球警察には久米島出身者が多かったという沖縄トリビアも少なくない)、あっという間に物語のなかに引きずり込まれていく。うまいうまい。その背景にある意外な真実があぶりだされるまで、一気読みの傑作だ。
本土復帰50周年という節目の年に贈る坂上泉、渾身の力作である。
(双葉社 1870円)