「英雄」 真保裕一著

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 叔母ときょうだいと4人で暮らす植松英美のもとにある夜、2人の刑事が訪ねてきた。英美の“実の父親”が1年半前、足立区の河川敷で射殺されたという。父親は、山藤ホールディングス創業者の南郷英雄、享年87。7年前に病死した母親が誰にも明かさなかった父の名を、英美は初めて知る。

 父・英雄とはどのような人物だったのか。母と英雄はどこで知り合ったのか。そして一体、誰に殺されたのか……。遺産相続の件もあり、英美は英雄の秘められた半生をたどり始める。

 英美が英雄の家族や部下など縁のあった人物を訪ね英雄の姿を徐々に浮かび上がらせていくのに並行して、バブル崩壊後の平成4年から昭和25年まで、時代を遡る形で描かれる南郷の半生が壮絶だ。

 戦後の苦しい時期を食いつなぐため港湾労働者をしていた英雄は、18歳のとき、ある運送業をつぶし、自らが会社を立ち上げていく。会社が大きくなる中での部下との衝突、ヤクザとの付き合い、打算で選んだ結婚相手と複数の女性関係……。

 英雄の機を見るに敏な行動力と会社を守るための冷酷さからは、いくつもの犯人像が浮かんでは消える。意外な犯人と英雄の驚愕(きょうがく)の真実が明かされるラストまで一気読みの長編サスペンス。

(朝日新聞出版 1870円)

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