「他者の靴を履く」ブレイディみかこ著

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 本書は、ベストセラー「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の中に登場した「エンパシー」という言葉をきっかけに生まれたエンパシーの考察本。著者の息子が、テストで「エンパシーとは他者の靴を履いてみること」と答えた前著の場面に対する反響が大きかったことに驚いた著者は、安易なエンパシー論になりがちな風潮に対して、もっと掘り下げた議論があることを紹介しながら自身の思考を丹念に追っていく。

 エンパシー(他者の感情や経験を理解する能力)は、シンパシー(共感)と混同されがちだが、エンパシーは能力として身につけるものであり、シンパシーは感情など自身から湧いてくるものである点が違う。鉄の女・サッチャーが「シンパシーはあったがエンパシーがなかった人」として紹介されているほか、福祉や教育の予算を政府が削り続けている状況下で「政府にも苦しい財政事情があるのだから」と庶民がエンパシーを発揮し過ぎて自分の靴を捨てて従順になり、従わない人には自警団のような形で攻撃したりすることをエンパシーの闇落ちとして指摘しているのも興味深い。 (文藝春秋 1595円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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