五木寛之 流されゆく日々
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連載10331回 夜と昼のあいだに <4>
(昨日のつづき) 地下鉄をおりて芝公園のあたりを歩いていたら、スーパーカーや超高級車のショーウィンドゥがあちこちにできていてびっくりした。 フェラーリやロールスロイス、その他の店が東京タワーの…
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連載10330回 夜と昼のあいだに <3>
(昨日のつづき) 今日は坪田譲治賞の選考会に出席。どうやら直木賞の選考日でもあるらしく、幾人かの編集者に予想をきかれて答えに困惑する。 直木賞の選考委員をやめてから、もうかなりたっているし、最…
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連載10329回 夜と昼のあいだに <2>
(昨日のつづき) 今夜も眠れないままに枕元に本を積みあげて、朝まで(午後まで)ベッドの中にいる。 星文社の木下邦彦さんからもらった樋口陽一著『個人と国家』(集英社新書0067A)のページをめく…
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連載10328回 夜と昼のあいだに <1>
今日は午後7時に目覚めた。このところ睡眠のリズムが大幅に狂ってしまって、どうしても元にもどらない。 元といっても午前6時就寝、午後4時起床というのがふだんの生活である。 夜中に原稿を書く暮し…
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連載10327回 年頭雑感あれこれ <4>
(昨日のつづき) 全国各地、大雪で大変らしい。「長崎は今日も雪だった」などとテレビの司会者が駄洒落を言っていたが、画面を見ていると相当な積雪である。 しかし、東京周辺の関東地区では、まったく雪…
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連載10326回 年頭雑感あれこれ <3>
(昨日のつづき) 1935年の朝鮮財界の様子を、前述の『大日本・満州帝国の遺産』には、当時の雑誌記事からの引用として、次のように紹介している。 <(前略)「千載一遇の戦争好景気来! どのようにし…
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連載10325回 年頭雑感あれこれ <2>
(昨日のつづき) 元日からの1週間、ほとんど本や雑誌を濫読して過ごした。 ありがたいことに体力の衰えにもかかわらず、耳と眼だけはなんとか役に立っている。もっとも5、6時間もベッドの中で活字を読…
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連載10324回 年頭雑感あれこれ <1>
今日は雨。1月に雨は似合わない。東北はかなりの豪雪らしいが、関東では雪に変る気配はない。このところちょっとした地震がくり返しやってくる。なんとなく不穏な新年だ。 書店をのぞくと、昨年の暮に幻冬舎…
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連載10323回 今年はどうなる? <2>
(昨日のつづき) 世間の様子から現実を簡単に判断することができない。時代の趨勢を具体的な日常から推理することが難しい時代になったのだ。 昔は世の中の景気はタクシーのドライバーにきけ、という話が…
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連載10322回 今年はどうなる? <1>
いよいよ平成30年。今年はどんな年になるのか? 私自身もぜひ知りたいところだが、一向に見当がつかない。 10年、20年先の予測は、いろいろ話題になっている。いわく、人口の減少。高齢化。少子化…
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連載10321回 「マサカの時代」は続く <4>
(昨日のつづき) 『流されゆく日々』のこの一年も、今回で終りである。しかし、来年も『流されゆく日々』は続く。いや、続くだろう。誰にも明日のことなどわかりはしないのだ。私が倒れることもあるかもしれない…
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連載10320回 「マサカの時代」は続く <3>
(昨日のつづき) 思いがけない天災は、寺田寅彦の言葉どおり「忘れた頃にやってくる」ものだ。 この列島は世界でもめずらしい不安定な場所である。その事は歴史や文化の上でも、大きな影響をあたえている…
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連載10319回 「マサカの時代」は続く <2>
(昨日のつづき) 今年の「マサカ」は、両手の指ほどもある。ふり返ってみると「小池百合子パワーの減速」もそうだったし、「貴乃花の乱」の推移もそうである。 こう言っては悪いが、ノーベル文学賞の行方…
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連載10318回 「マサカの時代」は続く <1>
この一年をふり返ってみると「マサカ」「マサカ」の連続だった。 英国のブレグジットやトランプの登場のことではない。スペインのカタールニア州が独立を企てる。これはドン・キホーテの夢ではなくて、現実の…
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連載10317回 去りゆく昭和への挽歌 <5>
(昨日のつづき) 今日は昭和ではなく、大正の雰囲気をあじわうこととなった。NHK・TVの『ニュースウオッチ9』のための収録である。 最初は小石川の民家で、有馬キャスターとの対話、そして夕刻から…
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連載10316回 去りゆく昭和への挽歌 <4>
(昨日のつづき) 時代を象徴するものが歌である、という私の固定観念は、たぶん昭和初期の子供時代に培ちかわれたものだろう。戦争は常に歌とともにあった。 野口雨情、北原白秋、西條八十らの童謡運動は…
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連載10315回 去りゆく昭和への挽歌 <3>
(昨日のつづき) 昭和という時代をふり返って、なにが昭和を象徴するかと考えてみると、やはりかつての今様と同じく、それは歌謡曲なのではないかと思われてくる。 昭和はじつに歌謡曲、流行歌の黄金時代…
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連載10314回 去りゆく昭和への挽歌 <2>
(昨日のつづき) 梁塵秘抄とは、中世の流行歌集である。平安中期から鎌倉前期にかけて、世間に流行した歌謡の数々を集めたアンソロジーだ。 当時、今様といわれる巷の歌が熱病のように大流行した。 <…
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連載10313回 去りゆく昭和への挽歌 <1>
サッチー、こと野村沙知代さんが亡くなられた。沙知代さんは昭和7年の生まれで、私と同年である。また一人、昭和7年組の同世代人が世を去って、寂寥感がつのるのを禁じえない。 昭和7年、1932年という…
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連載10312回 真相はいつも『藪の中』 <5>
(昨日のつづき) 真実はすべて「藪の中」という思いを改めて痛感したことの一つに、兼好法師の話がある。 兼好は吉田兼好と呼ばれた14世紀の文人である。その著書『徒然草』は、日本三大エッセイの一つ…