五木寛之 流されゆく日々
-
連載10351回 雪の金沢 瞬間紀行 <4>
(昨日のつづき) 市内ロケの途中で、玉川図書館の前を通った。雪の中に赤レンガの建物が良く映える。 白一色の中に旧制四高や昔の裁判所の建物は目を洗うように美しかった。いまの金沢市内には赤レンガの…
-
連載10350回 雪の金沢 瞬間紀行 <3>
金沢の雪は、38豪雪として有名な昭和38年の大雪が有名だ。その時は、2階の窓から出入りする家もあったらしい。 今年の雪は、それにくらべるとそれほどでもない。メインストリートは除雪されて、車の通行…
-
連載10349回 雪の金沢 瞬間紀行 <2>
(昨日のつづき) 夜の金沢の街に雪が舞っている。風も強く、横なぐりの雪に思わず首がすくむ。 金沢周辺の在来線は、ほとんど運行中止になったり、間引き運転をしているらしい。 ホテルのルームサー…
-
連載10348回 雪の金沢 瞬間紀行 <1>
きょうは夕方の新幹線で金沢へいく。 翌日、<古書店の人びとと古書を語る>というテーマの公開録画があるので出席するためだ。 ステージでの座談会の前に、1時間あまりの講演をしなければならない。 …
-
連載10347回 「和して同ぜず」の思想 <5>
(昨日のつづき) ポピュリズムという問題がしきりに論議されている。もともとは庶民の生活を描く文芸や美術について言われたが、その後、社会現象、政治的姿勢をさす場合がふえてきた。 わが国では、もっ…
-
連載10346回 「和して同ぜず」の思想 <4>
(昨日のつづき) 最近、なぜかしきりに引用されるのが、ルソーとホッブスである。それぞれ考え方によってはアブない思想家だが、ある転形期に両者が引き合いに出されることはわかる。共にどこか今の時代とかか…
-
連載10345回 「和して同ぜず」の思想 <3>
(昨日のつづき) 「和して同ぜず」というのは、言いかえれば連帯しても「一億一心」にはならない、ということだ。 それは「集団的孤独」というふうに表現してもいいかもしれない。 ロシアやブルガリア…
-
連載10344回 「和して同ぜず」の思想 <2>
(昨日のつづき) グループや集団には、規則というか、約束ごとが必要不可欠だ。また皆と仲良くやっていく必要もある。しかし、全員が機械のように同じタイプになる必要はない。それぞれに個性もちがう。経歴も…
-
連載10343回 「和して同ぜず」の思想 <1>
『孤独のすすめ』という本を出してから、いろんな時に同じことをきかれるようになった。 「要するに社会参加するな、という意見ですか?」 などと全く見当ちがいの質問をしてくるジャーナリストもいる。また…
-
連載10342回 『東京タワー』を歌う <5>
(昨日のつづき) 日本コロムビアから先ほど発売された『東京タワー』のカバー・デザインには、一種の暗黒舞踏の感じがある。土方巽の暗黒舞踏は、世界の先端をいくパフォーマンスだった。それは1959年、ほ…
-
連載10341回 『東京タワー』を歌う <4>
(昨日のつづき) 昨日、長崎から帰ってきた。 ひさしぶりの長崎は中国の旧正月を迎える活気にあふれていた。1万6000トンの豪華客船が、6000人の中国人観光客を乗せて入港すると、街中が中国語で…
-
連載10340回 『東京タワー』を歌う <3>
(昨日のつづき) 人間を他の生物と区別するものは、「言葉」であるという。犬や猫にも言葉はあるにちがいないが、やはり言語の発生は、人類の歴史とともにあると言っていいだろう。 しかし、私は「言葉」…
-
連載10339回 『東京タワー』を歌う <2>
(昨日のつづき) 私が九州の田舎から上京したのは、昭和27年(1952年)のことだった。博多駅から24時間かけて列車で東京に着いたのだ。 『鉄腕アトム』が登場したその年は、またマーシャル諸島で水…
-
連載10338回 「東京タワー」を歌う <1>
ひさしぶりに歌謡曲のレコードを出した。コロムビア・レコードから先週発売された『東京タワー』という歌である。あまりにもベタな曲名と思われるかもしれない。しかし、昭和歌謡へのエレジーと考えれば、照れる必…
-
連載10337回 今週読んだ本から <5>
(昨日のつづき) 今週ではなく、先々週に読んだ本を何冊かあげておく。坪田譲治文学賞の候補作品として主催者から送られてきた4冊の単行本だ。 坪田譲治といえば児童文学者として知られているが、その作…
-
連載10336回 今週読んだ本から <4>
(昨日のつづき) 相変らず睡眠時間がアナーキーになってしまって、もとにもどらない。 午前5時か6時にベッドにはいるのだが、2、3時間眠ると、必ず目が覚めてしまうのだ。 ぬる目の風呂に入って…
-
連載10335回 今週読んだ本から <3>
(昨日のつづき) 気象庁の予測が今回は見事、適中して、東京はひさしぶりの雪である。 そういう折りも折り、大阪へ講演で出かける事になった。タクシーはまったくつかまらず。駅のキオスクの弁当コーナー…
-
連載10334回 今週読んだ本から <2>
(昨日のつづき) 鎌田東二さんの『言霊の思想』(青土社刊)を、ようやく読み終えた。なんといっても441ページもある大著である。鎌田さんは年を重ねるごとにエネルギッシュになっていくようだ。百歳を迎え…
-
連載10333回 今週読んだ本から <1>
テレビをつけると、お笑い番組ばかりなので、最近はほとんどテレビを見なくなった。 笑うことにあきあきしているわけではない。いかにも手なれた笑わせぶりが目について、つい鼻白んでしまうのである。 …
-
連載10332回 夜と昼のあいだに <5>
(昨日のつづき) 最近、ヘルス・リテラシーという言葉をよく耳にするようになった。 要するに氾濫する様々な健康情報の中から、正しい知識を選択する能力、ということだろうか。 高齢に達しても働け…