五木寛之 流されゆく日々
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連載9905回 昭和歌謡は生きている <5>
(昨日のつづき) 山田風太郎の『昭和前期の青春』(ちくま文庫)に、歌についての回想がある。昭和10年代後期、風太郎10代の終り頃の話である。「日中戦争が始まって、もう二、三年たっていた」時期らしい…
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連載9904回 昭和歌謡は生きている <4>
(昨日のつづき) 1945年の敗戦のあと、中学1年生だった私は、戦前、戦中の歌謡曲をシャワーのように浴びることになった。 集団で暮していたその時期、私より年長の青年たちと毎日毎夜、つるんで日を…
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連載9903回 昭和歌謡は生きている <3>
(昨日のつづき) いまにして思えば、戦前、戦中の軍歌は、ほとんど歌謡曲だったような気がする。 歌詞は勇壮であっても、そこに流れている曲想は、まさしく歌謡曲のそれだった。国民歌謡というものは、じ…
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連載9902回 昭和歌謡は生きている <2>
(昨日のつづき) 戦前、戦中を通じて、この国にはさまざまな歌が流れていた。そもそも巷に歌声が絶えたことは、古代から一度もなかったはずである。江戸時代も、明治の頃も、人びとはさまざまに歌い暮した。 …
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連載9901回 昭和歌謡は生きている <1>
桜も散った。 寒い日が続いたせいか、今年の桜は心なしか散るのがおそかったような気がする。 そういえば今年は、例の桜の季節の主題歌といっていい「サクラ サクラ 弥生の空は」という歌を一度もきか…
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連載9900回 聖徳太子信仰のルーツ <5>
(昨日のつづき) 聖徳太子にかぎらず、歴史上の人物については、あまりにもわからない事が多すぎる。 歴史的事実とされているものの大半は、物語と伝説なのではないか、と私は疑っているのだ。 古代…
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連載9899回 聖徳太子信仰のルーツ <4>
(昨日のつづき) この年になって、つくづく感じるのは、世の中にはなんと知らない事が多いかということだ。小学生の頃から、かなり沢山の本を読んできた。学校でいろんな事を学んだ。人の話もきいてきた。 …
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連載9898回 聖徳太子信仰のルーツ <3>
(昨日のつづき) 二上山を抜けて、河内と大和をつなぐルートは、古代からいくつもあったと考えられる。 その一つが竹内街道だ。 聖徳太子ゆかりの地とされているが、かつては乞食街道と呼ばれたこと…
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連載9897回 聖徳太子信仰のルーツ <2>
(昨日のつづき) 聖徳太子、といえば、一般の人はなにを連想するだろうか。 法隆寺とか、十七條憲法とかいうより先に、まず思い浮かべるのは、お札のポートレイトだろう。その著書といわれる『三経義疏』…
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連載9896回 聖徳太子信仰のルーツ <1>
親鸞は生涯、聖徳太子を尊崇していた。そのことで、しばしば質問を受けることがある。 「聖徳太子のどこに親鸞はあれほど惹かれたんでしょうか」 と、たずねる人が多いのだ。 「さあ」 私もその事…
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連載9895回 サクラ咲く季節の中で <5>
(昨日のつづき) きょうタクシーに乗ったら、えらく話好きのドライバーだった。 「さっきオークラから赤坂のほうに抜ける道を通ってきたんですけどね、桜がきれいでしたよ。2、3日後には満開になるんでし…
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連載9894回 サクラ咲く季節の中で <4>
(昨日のつづき) 昔話になる。 1950年代の話だ。1952年、つまり昭和27年の春に、私は九州から上京した。はじめての東京である。西も東もわからぬままに、すぐさまアルバイト生活がはじまった。…
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連載9393回 サクラ咲く季節の中で <3>
(昨日のつづき) 桜を見ると浮き浮きする、という人がいる。反対に、 「なんとなくウツになるんだよなあ」 と、いう人もいる。それぞれに実感がこもっているからおもしろい。 夜、桜の名所のあた…
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連載9892回 サクラ咲く季節の中で <2>
(昨日のつづき) 昔、大学入試の発表を、その地の友人や知人に頼んで、当日、見にいってもらうことがあった。 地方から東京や、その他の都市の大学を受験したときなどが、そうである。 もし幸いに合…
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連載9891回 サクラ咲く季節の中で <1>
暖かい日が何日か続いたかと思うと、また冬にあともどりしたかのように寒さがぶり返す。 厚手のジャケットを片付けようとするが、こう気温が上下するのでは対処しようがない。 テレビは連日、桜のニュー…
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連載9890回 伝説と物語の値うち <4>
(昨日のつづき) 目に見えないものの力。 物語と伝説の力とは、まさしくそういうものではないのか。 私たちは、数字とか、統計とかを頼りに物を考える傾向がある。しかし、それは決して現実的ではな…
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連載9889回 伝説と物語の値うち <3>
(昨日のつづき) 私たちがモノの対価として支払う金銭は、必ずしも品質に対してだけではない。 むかし雑誌でフランソワーズ・サガンと対談をしたことがあった。対談とは名ばかりで、有能なフランス語の通…
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連載9888回 伝説と物語の値うち <2>
(昨日のつづき) 先日、金沢へいってきた。東京─金沢、2時間半という新幹線は、なるほど便利だ。 これでは日帰りも不可能ではないだろう。ただし、金沢で一泊というのを楽しみにしている風流人には、残…
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連載9887回 伝説と物語の値うち <1>
若い世代が、あまり車を欲しがらないという。ひと昔まえは、湘南海岸をオープンカーで走りながらボサノヴァの音楽をかけるとか、そういうのが恰好よかった時代もあった。 車が必要ならシェアリングすれば…
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連載9886回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <5>
(昨日のつづき) きょうは取材インターヴューが重なって、思いきり時間オーバーしてしまった。最初に予定していた時間が2倍、3倍に超過してしまうのは、毎度のことである。 最初は、雑誌のための親鸞に…