修羅にうたう
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(61)あんたは、ここにいちゃいけない
「流石は侍大将。こんな所でもちゃんとした衣を持っている」 揶揄うように言い、茜は佐助を手招いた。佐助が渋々と茜について台所の裏手にある小間に行くと、裏にある井戸端を示された。 「汚れを落…
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(60)これを佐助に着せてやってくれ
弥太郎は目を伏せて黙り、茜は佐助の肩を優しく抱いた。宗長は、ふむ、と頷いた。 「この修羅の場で、人の心を持ち続けるのは難しい。されどその人の心があるお前にこそ、ついて来て欲しいと思うのだ……一…
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(59)まるで野良猫じゃないか
〈出立の支度〉 夕刻に配られた粥を掻きこんでいた佐助は、空になった椀を恨めしく見つめる。 城郭の中、日がな一日何をしているわけでもないのに腹が空く。城郭の片隅で植えていた芋は、未だ食べ…
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(58)御館様も…ですか
「よい歌であろう。琵琶湖に限らずいずれの旅路も、急ぐ時ほど回り道が早いことがあると、師匠の宗祇様もおっしゃった。助かろうと思えばこそ、逸る心はよう分かる。されど、迂遠に見えてもより確かな道を選んだ方が…
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(57)要るのは長い長い物語
確かに、起こらなかった戦もあるのだろう。 此度の戦とて、何故、ここまで深入りする前に止めることが出来なかったのかと思わぬではない。事前の策も、謀もなく、闇雲に突っ込んだ挙句、国人の恨みを買う…
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(56)旅をしたことはあるかな
〈戦ぎらい〉 「いずれも四十年前……そなたなんぞ生まれてもおるまい」 宗長は自嘲するように笑った。 「しかし、一休宗純という人は、余りにも型破りな……」 弥太郎はやや呆れつ…
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(55)そなたはそなたの灯に従え
すると一休は、ゆっくりと首を横に振る。 「渦に巻き込まれぬ術は、ただ抗うことではない」 「ではどうするというのです」 破戒僧の禅問答に答えが見つからず、宗長は苛立った。すると一休…
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(54)戦は終わらぬでしょうか
「一休さんがこうして遊里におられると、無体をする者が減るのです。一休さんは、我らのように売られて来た女や、森女さんのような弱き者の中にこそ、仏はいるとおっしゃる」 そういうものか、半ば首肯し、…
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(53)地獄太夫と申します
一休の声は、異様な風体とは異なり、何とも穏やかで落ち着いている。宗長はふと肩の力が抜ける気がした。 「宗祇様は今、美濃におりまして、間もなく京に戻られると」 「ほう……あいつも忙しない」…
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(52)美女の傍らに一休宗純
遊里の野暮の末、一人が腰の刀を抜き放つと人垣が割れた。 こんな町中の人込みで刀を揮えば、少なからず人死にが出る。宗長は思わず拳を握り、硬直した次の瞬間、刀を抜いた男の頭上に、水が降り注いだ。…
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(51)義忠を失った夜の景色が蘇る
義忠を失ったことも、宗祇には文で伝えていた。しかし今は歌を詠む気力もない。それでもまずは会ってみようと思っていた。しかし生憎と宗祇は都にはいなかった。 「それならば、大徳寺で参禅でもしたら如何…
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(50)静かな月の光が降り注ぐ
〈都にて、宗祇と一休〉 都で人脈を広げ、いずれは今川の役に立つ。 それが亡き義忠との約束であった。しかし、都に上がった当初は、最早、何をする気も起きなかった。 「どれほど強い者で…
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(49)宗長の横顔に深い後悔
〈祖父との縁〉 「古い話だ」 語り終えた宗長は、傍らにいる弥太郎を見やり、ふうっと深いため息をつく。 「勝ち戦で、武勇の大将であった。しかしあの瞬間、いとも容易く命は奪われ、我らは…
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(48)何と呆気なく命を落とすとは
宗長は泰煕を見やる。 「……どうしましょう」 「儂はまだ戦える故」 屈強で大柄な泰煕は、顔に浴びた返り血を拭い、刀を手に握り、鼻息も荒い。そして横たわる義忠の姿を覗き見る。 …
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(47)義忠の身を担いで歩きだす
「御館様」 宗長の絶叫は、周りにいた武将たちの耳にも届いたらしく、彼らも戦いを止め、義忠を救うべく集まり始めた。 宗長もようやく雑兵を蹴散らして、倒れている義忠ににじり寄る。 「…
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(46)馬上の義忠は正に鬼神の如く
それにしても、こうして戦の帰途に、今度は政に頭を切り替え、未だ幼き娘の嫁ぎ先を考えているとは。義忠の考えの深さと広さに、改めて驚かされる。そして同時に、これでもう戦が終わるのだと、安堵する思いもあっ…
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(45)予て京へ修行の旅に出たい
一行はゆっくりと山道を進んでいく。 「何故、小夜の中山ではなく、塩買坂なのですか」 遠江から駿府の今川館に向かう最短の道は、小夜の中山と呼ばれる道である。しかし今、進んでいるのは、信濃…
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(44)奥にある林の中から数多の目
敵味方の判別はつかぬが、骸はそこここに転がっていた。 ふと見やると、その奥にある林の中から、数多の目がこちらに向けられているのに気付いた。それは、甲冑など身に着けず、粗末な着物で泥に塗れた顔…
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(43)しかと、この武勇を記せよ
〈勝ち戦の結末〉 文明八年の二月。春が来たとはいえ、まだ風は肌寒い夜である。二十九歳の宗長は、墨染姿で焚火に当たっていた。 「勝ち戦の帰り道とは、かくも気分の良いものか」 焚火の…
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(42)さながら禅寺の修行のよう
「御坊があの者を唆したと、佐助は言っていましたが」 宗長は、やれやれ、と肩を竦める。 「あの孫十郎という野武士は、虚勢を張っていないと耐えられなかったのだろう。だが放って置けば、城内が不…
