修羅にうたう
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(21)氏親は武将というには優しげ
宗長が二十九の時、先の当主である今川義忠が亡くなった。 その後、京に上った宗長は、禅寺の一休宗純の元で修行に励んでから、連歌師宗祇の弟子として各地を回り、旅から旅への日々を過ごしていた。 …
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(20)雲の切れ間から月が覗く
〈特使宗長の独白〉 夜の城郭の中は、闇と共に人々の絶望が澱んでいる。 歩きながら宗長は深いため息をつく。 侍大将たちは城の中にいるが、雑兵たちは城の入り口辺りまで溢れており、壁…
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(19)儂一人で参ってすまぬ
宗長は、深く頷いて弥太郎を真っ直ぐに見つめた。 「そなたは、皆の沈黙を破り、次にどうするかを、真っ先に儂に問うた。他の者たちは、その問いよりも己の波立つ心を落ち着かせるので精一杯に見えたのだ。…
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(18)兵糧を見せてもらえるか
本丸から出た宗長は、辺りを見回して、 「兵糧は何処にある」 と、問う。弥太郎は、兵糧のある蔵へと導いた。小荷駄奉行の元へ向かい、 「兵糧を見せてもらえるか」 と言うと、奉…
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(17)和議などと容易く申されるな
小田原の北条早雲が、小山田氏との争いに参戦していたことも、今川が甲斐に進軍する理由の一つであった。しかしその北条早雲が撤退。早雲と氏親は叔父甥の関係にあり、これまでも事あるごとに連動していた。北条が…
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(16)祖父は笑って「連歌だ」と
幼い弥太郎は、祖父たちが何をしているのか分からず、 「何をしておられますか」 と問うた。すると祖父は笑って言ったのだ。 「連歌だ」 連歌とは何かはよく分からなかったが、こ…
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(15)この正月で七十になった
〈墨染の特使〉 弥太郎は、柴屋軒宗長と名乗る僧を伴い本丸へと向かう。平山城とはいえ、本丸へは石段が続き、老人であれば辛いこともあろうかと思うが、宗長という老僧の足取りは揺らぎがない。 「…
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(14)おおい、門を開けてくれ
戦場の原に現れた人影は、ゆらゆらと動きながらこちらに向かって近づいて来る。 「あれは……坊さんですか」 佐助の言葉に、弥太郎はうむ、と唸るように頷く。 確かに野原を歩いて来るの…
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(13)過ぎた事を振り向くな
少年は泣きそうな顔で、ぐっと唇を噛みしめた。その顔には見覚えがあった。先日、刈田狼藉に駆り出され、兵糧を持って戻ったところを襲われ、ぎりぎりで虎口に駆け込んできた少年である。あの日、少年は傍らにいた…
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(12)そこで何をしている
弥太郎に向かって、若武者は姿勢を正した。 「福島彦九郎と申す。弥太郎殿の先の引間城での戦での武功は聞き及んでおります」 四年前、遠江の引間城を巡る戦があった。尾張の斯波義達らが引間城に…
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(11)これは戦と言えるのか
弥太郎はこの出兵に端から反対であった。 元々この戦は、甲斐の跡目争いに端を発する。 十年前、武田の当主、信縄が死んだ。その跡目を巡り、信縄の弟である信恵と、息子の信虎が戦をすることと…
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(10)弥太郎はこの年、二十四に
〈侍大将弥太郎の不安〉 烏がバサバサと黒い翼をはためかせ、天空から舞い降りていく。骸を食らってカアカアと仲間を呼ぶ様は、まるでこちらを嘲笑っているかのようだ。 朝比奈弥太郎はそう思いつ…
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(9)見えるのは援軍か兵糧か
その時、視界の先に赤鳥紋の幟が見えた。 「援軍かい」 「いや……兵もいるが、兵糧だろう」 確かに、俵を載せた荷車などが続いているが、兵そのものの数はさほどではなさそうだ。少しずつ…
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(8)何だか嫌な予感がする
「椿城の兵じゃないのかい。味方だろうよ」 茜はそう言ってみたものの、兵たちの動きから立ち上る言い知れぬ殺気のようなものを感じていた。 「……何だか嫌な予感がする」 小菊はぶるる、…
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(7)お互い、縄張りは荒らさんように
城内に入って来た茜太夫を見て、一人の年増の遊女が歩み寄って来た。 「お互い、縄張りは荒らさんようにしましょ」 遊女は小菊といった。この小菊が遊女たちを取りまとめているらしい。茜は芸を売…
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(6)一月ほど前に勝山城に
〈猿楽の茜太夫〉 勝山城の見晴らしからは、遠くに連なる尾根が見える。富士山まではまだ遠いが、猿楽一座の茜太夫は、朝の涼やかさの中でこの景色を眺めるのが気に入っていた。 しかしそれは、数…
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(5)儂らを盾にして生き残れ
佐助は荷車に寄りかかるように崩れ落ちた。 「助かった……のかな」 佐助はそう言ったのだが、左隣にいる与作からは返事がない。見ると、与作は体を荷車にあずけたままでこちらに背を向けている。…
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(4)身を低くして荷車を押せ
戦場にあって、与作がいつも佐助の気持ちを明るくしようとしてくれていることは有難い。与作とは親子ほどの年の差なので、この行軍の間、何かと不慣れな佐助の世話をしてくれていた。 「お、見えて来たぞ」…
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(3)骸の男が植えた稲なのだ
「でも、でも人が死んでる」 佐助が田に浮かぶ骸を指すが、与作は首を横に振る。 「戦だからな」 自らにも言い聞かせるように低い声で言い、再び黙って稲を刈り始める。 佐助はそ…
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(2)誰の田かも分からないのに
戦場の城に入ったとはいえ、佐助のような農夫上がりの雑兵がすることは、すぐにはない。蔵にある米を脱穀したり、城壁の中にある小さな畑の手入れをするくらいである。 「何じゃ、こんなことなら慣れたこと…
