修羅にうたう
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(41)さながら禅寺の修行のよう
宗長に導かれて出向いた二の丸には、入り口近くに、頑強な体躯の野武士たちがおり、その奥には農夫上がりと思しき面々がいる。そして最奥には、怪我を負って寝ている者がごろごろと転がっていた。 「農夫上…
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(40)この者たちをどうしろと
〈籠城を生きる〉 城郭の裏手にある納屋の前。弥太郎の目の前には、女たちがずらりと十人余り並んでいた。髪を結い上げて桂包でまとめており、くすんだ木綿の小袖を身に纏っている。その傍らには目つきの剣…
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(39)あの男は怯えていた
うっかり宗長に心を許していただけに、佐助は裏切られたような心地がした。そして、己が孫十郎のことを話したばかりに……と思うと、ずしりと業を背負ったようで、青ざめる。 その顔を見た宗長は、佐助の…
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(38)孫十郎の選んだ道じゃ
とはいえ、孫十郎のことを話したのも、引き合わせたのも佐助だ。そう言おうとするのを遮り、宗長は更に続けた。 「死んだ四郎殿のことも。そなたは傍らにいた故、さぞや心を痛めたであろう。されど、自ら命…
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(37)ここだけの話ではあるが
孫十郎の言葉には、華やぎと希望があるように思う。だが、それを聞く宗長は、焚火の周りを囲む、疲れ果てた雑兵たちを沈痛な面持ちで眺めた。 「これで勝てるとお思いか」 「おう、大井の国衆がどれ…
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(36)籠城とは何とも不甲斐ない
突如として現れた宗長に褒められた孫十郎は、気を良くして胸を張り、口ひげを撫でつつにやりと笑う。 「さよう。俺が孫十郎だ。御坊は何者かな」 「ああ、儂は昨日、駿府より遣いで参ったのだ。総大…
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(35)野武士たちの目が爛々と
夜が近づいて来ると、城郭の中の者たちは、居場所を求めて彷徨い始める。 火を焚くにも木も少なく、松脂も僅か。すると力ずくで奪い合うことになる。結果、剛腕な者の側に焚火があり、従う者はその周りを…
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(34)誰もが苦しんでいるのか
「御坊様がいうような仏心が俺にあるのかは、分からねえ。俺はただ、あの人が死んだ時に……あちらに引っ張られそうで怖かった」 そう言いながら、佐助はぶるる、と身震いをする。 空に向かって飛…
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(33)俺はいよいよ地獄に落ちる
佐助は、これまでにも戦から帰って来た農夫が、突然暴れ出す姿を見たことがある。 「戦で人を殺して来たから、悪霊に憑かれているんだ」 近くの寺の僧侶は、そんな風に言っていた。 つま…
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(32)二の丸の奥にヤツデがありました
焚火の前を陣取っていた孫十郎という二十四、五の男が、傍らの大槍をドンと地面に突き立てて胸を張った。 「このまま、座して死を待つだけでは我らも浮かばれぬ。いっそ、ここで武勇ある者たちだけでも打っ…
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(31)空堀の中にじわりと赤い血が
佐助は一瞬、目の前で何が起きたのか分からなかった。 ……四郎は、飛んだ。 そして空堀の底へ落ちたのだ。 空堀の中にじわりと赤い血が滲み、小さく震えたように見えた四郎の体は、四肢が奇…
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(30)甲斐の風は凍えるよう
〈佐助と野武士〉 井楼の上から見る風景は、相変わらず殺伐としている。 山から吹き付ける風の冷たさに、少年、佐助はぶるる、と身を震わせた。暖かい駿河に慣れていた佐助にとって、甲斐の風は凍…
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(29)一節切の音が夜空に響く
そうして宗長は、改めて茜をしみじみと見やる。 「だから、そなたのように、乱世を逞しく生きている女子を見ると、あのお蔦も、何処かで生き抜いてくれているのではないかと、微かな望みを繋ぐのだ」 …
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(28)助けたい一心で野武士を斬った
「幼馴染の娘が連れ去られたのは、戦の後かい」 「その名残と言うべきかな。通りすがりの野武士のせいだ」 宗長の故郷である駿河と遠江の境でもある大井川の辺りでは、今川と斯波の小競り合いがしば…
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(27)涙を拭い静かに立ち上がる
お福の死を嘆いている暇はない。亡骸を長らくここに留めれば、臭いが立ち、虫もわき、病の元となる。捨てなければならない。それが分かっているから、皆一様に涙を拭い、静かに立ち上がる。 「お福はもう、…
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(26)納屋の中の女たちが身を縮める
険しい顔で睨む茜に、老僧はふわりと微笑んだ。 「儂は宗長と申す。駿河の柴屋軒より御館様の命で勝山城に入った。城内に女人を見かけぬ故、何処にいるのかと案じていたのだが……」 声に嘘はない…
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(25)月明りの下、その人影は僧侶
〈茜太夫の舞〉 夢うつつの微睡の中、何処からともなく悲し気な音が響いて来た。遠くから吹く風の音かと思ったが、それが旋律であることに気付き、茜はそっと目を開ける。 狭い納屋の中には、十人…
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(24)これは…もしや先代の
氏親が訪ねて来た時から、何か厄介な話だろうと思ってはいた。まさか甲斐との戦の話とは思っていなかったが……。 「戦は、始めることよりも、終わらせることが遥かに難しい。叔父上や大井氏の頼みとはいえ…
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(23)甲斐の武田に知己はないか
「諸将の言う通り、今になって勝山城に援軍を送るのは得策ではありませんな。むしろ、これから遠江との戦になるとするならば、背後の甲斐は、守りに徹する方が得策かと」 氏親は、うん、と頷く。その割り切…
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(22)何なりと仰って下され
どうやら、気の強い桂姫と鷹揚な氏親とは相性が良かったらしい。姫の方も京にいるよりむしろ伸び伸びと暮らしているようだ。 「それを聞いて安堵致しました」 今川家と中御門家の縁組の仲介を終え…
