五木寛之 流されゆく日々
-
連載10131回 文章をしのぐ挿絵の力 <3>
(昨日のつづき) 「描写のうしろに寝ていられない」 というのは、たしか高見順の言葉だったように思う。当時は、その言葉をめぐって、さまざまな論争がくりひろげられたものだ。 高見順といっても、最…
-
連載10130回 文章をしのぐ挿絵の力 <2>
(昨日のつづき) 私たちの子供の頃までは、紙芝居というものがあった。最近では、紙芝居といっても、ほとんど死語である。くわしく説明しないと、いまの若い人にはなかなかわかってもらえないようだ。 自…
-
連載10129回 文章をしのぐ挿絵の力
若いころ、林達夫さんにいろいろ話をうかがう機会があった。いまになってみると、実に貴重な時間だったと思う。大学を途中でヨコに出た私としては、その後、出会った先輩がみな先生だったといっていい。 旧平…
-
連載10128回 なんてったって文庫 <5>
(昨日のつづき) 年をとったら小さな部屋の前後左右に文庫だけの本棚を作りたい。そして終日、本を読んですごしたい。 ある人にそう言ったら、 「年をとったらって、もう十分に年をとってられるんじゃ…
-
連載10127回 なんてったって文庫 <4>
(昨日のつづき) 文庫本のことで思いだす話がある。日中戦争のころのエピソードである。 直接、ご本人から聞いた話だが、ディティールは正確におぼえていない。戦時中の挿話として読み流していただきたい…
-
連載10126回 なんてったって文庫 <3>
(昨日のつづき) 電子書籍もそこそこに普及しつつあるようだが、文芸の分野ではまだまだだ。 1カ月いくらと定額で多くの雑誌や新聞が読めるのは、たしかにすごい。 だが、小説という分野に関しては…
-
連載10125回 なんてったって文庫 <2>
(昨日のつづき) 文庫には、一般に解説というやつがついている。本来なら本文を読み終えた後に、おもむろに解説に目を通すべきだろう。それが文庫読みの定跡である。 しかし私は昔からどうしても解説のほ…
-
連載10124回 なんてったって文庫 <1>
私は文庫が好きだ。最近、新書もよく読むようになったが、やはりベースは文庫である。 文庫といえば、昔はもっぱら岩波文庫のことだった。戦後、いろんな文庫が出た。その中でも妙に印象がつよいのは、アテネ…
-
連載10123回 最近見なくなった光景 <5>
(昨日のつづき) 道路の端に車をとめて、何やら困惑している光景というのも、あまり見なくなった。ラジエーターから白い煙が出ていたり、タイヤの交換をしたりしているらしい。 そもそもタイヤがほとんど…
-
連載10122回 最近見なくなった光景 <4>
(昨日のつづき) (昨日のつづき) 最近、見かけなくなったものの一つに、クリスマスの夜の酔っぱらいオッちゃんたちがいる。 昔は、なぜか金や銀の長帽子をかぶり、手に土産物のケーキの箱をさげた中…
-
連載10121回 最近見なくなった光景 <3>
(昨日のつづき) 本屋さんの店先で立読みをしている人の姿を見なくなった。それも当然である。店員さんの視線を気にしながら、売場で立ち読みしなくても、椅子に坐って気楽に読めるのだから。 昔は長時間…
-
連載10120回 最近見なくなった光景 <2>
(昨日のつづき) そういえば近頃まったく見なくなったのが、女性の立ちションである。 昔は、などといっても江戸時代ではない。戦後しばらくたってからも、田舎では女性の立ちションはめずらしくなかった…
-
連載10119回 最近見なくなった光景 <1>
平成も29年ともなれば、昭和という時代がはるか遠いもののように思われてくる。 昭和歌謡などもそうだ。きっと今の若い人たちには、小唄、端唄か、都都逸のように感じられるのだろう。いや、都都逸などとい…
-
連載10118回 アラハン世代の逆襲 <5>
(昨日のつづき) アラハン。声にだして言ってみると、なんとも索然たる音の響きである。 長寿とか、長生きとか、そんな語感ではない。未知の荒涼たる荒野を前にしている旅人の感じなのだ。 月へ行く…
-
連載10117回 アラハン世代の逆襲 <4>
(昨日のつづき) 祖父の年金を当てにしてやってくる孫が、おじいちゃんをハサミで刺し殺したという。 なんということだろう。最近よく聞くのは、「なんとかうちのオジイちゃんに長生きしてもらわなきゃ」…
-
連載10116回 アラハン世代の逆襲 <3>
(昨日のつづき) アラハン(アラウンド・ハンドレッド)世代に逆襲は可能か。 これまでの90歳代のイメージは、寝たきりの植物人間だった。まれに元気なアラハンがいると、テレビなどで珍獣あつかいされ…
-
連載10115回 アラハン世代の逆襲 <2>
(昨日のつづき) 以前、刺戟的なマンガを見たことがあった。政府が「老人駆除隊」なる秘密組織をつくって、高齢者を抹殺していく話である。 その極秘工作に対して、老人側に男性ジャンヌ・ダルクのような…
-
連載10114回 アラハン世代の逆襲 <1>
アラサーという言葉が流行ったことがあった。アラウンド・サーティーの意味らしい。30歳前後の、おもに女性が対象とされていたようだ。 全体的に結婚する年齢がおくれるのは先進国の特徴である。かつては1…
-
連載10113回 話を盛るということ <5>
(昨日のつづき) このところシベリア出兵に関する本を、かなり読んでおもしろかった。 シベリア出兵、またシベリア派兵とも言う。これは一体なんなのか。一時は七万数千の兵を送りこんで、ザバイカルのあ…
-
連載10112回 話を盛るということ <4>
(昨日のつづき) 人間の記憶力が曖昧であることは、自分に即して考えてみれば、すぐにわかることだ。 つい昨日のことでも、失念する場合が少くない。いや、昨日どころか、その日の出来事でも、すっかり記…