五木寛之 流されゆく日々
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連載11107回 どこまでも続く泥濘ぞ <4>
(昨日のつづき) その日、私たちが駆けつけたときは、大きな衝突はすでに終ったあとだった。しかし、催涙ガスの匂いは有楽町、銀座にまで流れ、日比谷通りではアメ車が引っくり返されたり、黒煙をあげてくすぶ…
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連載11106回 どこまでも続く泥濘ぞ <3>
(昨日のつづき) ミャンマーの情況が激化している。世界がかたずを飲んで視ている、と言いたいところだが、欧米も日本をはじめとするアジア諸国も、自国のウイルスとの抗戦で大わらわで、ちょっとしたコメント…
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連載11105回 どこまでも続く泥濘ぞ <2>
(昨日のつづき) このところ、しきりに戦後まもなくの頃が思い出される。 七〇数年もたてば、すでに過去の歴史である。いまはただ年表でしか知る由もない過去のことだ。 先日、「浮浪児」という言葉…
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連載11104回 どこまでも続く泥濘ぞ <1>
一寸先は闇、とは昔から言われてきたことだ。明日のことはわからない。このところ関東圏でも妙な感じの揺れが続く。コロナの行先も予測はできない。豪華客船でウイルスによる感染が発生したとき、だれが現在の状況…
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連載11103回 遠眼鏡でみるU・S・A <5>
(昨日のつづき) あれはどれほど以前のことだっただろうか。『マウイ島の雪』という題の小説を書くことになって、念のために現地を訪れたことがあった。 前回にも書いたように、まだ観光開発の手がはいる…
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連載11102回 遠眼鏡でみるU・S・A <4>
(昨日のつづき) 米国でまたもや銃撃事件だ。 先日、ジョージア州でマッサージ店のアジア系女性らが射殺された事件のほとぼりも冷めぬうちに、こんどはコロラド州で銃撃事件がおきた。 なんでもスー…
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連載11101回 遠眼鏡でみるU・S・A <3>
(昨日のつづき) テレビ東京の番組『ワールドビジネスサテライト』(WBS)が、放送時間を1時間早めて、夜の10時スタートに変更するそうだ。 これで夜がまた少し早まってくる。ときどき視ている番組…
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連載11100回 遠眼鏡でみるU・S・A <2>
(昨日のつづき) このところ妙な地震が続く。なんとなく気になるのは私だけだろうか。 <泣きっ面に蜂>とか、<踏んだり蹴ったり>などといって悪い事は重なって起こることが多い。今年は多難な年になりそ…
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連載11099回 遠眼鏡でみるU・S・A <1>
日曜の新聞(朝刊)は、なんとなく活気がある。そのことを知人に言ったら、 「そうだよね、実はオレもそう感じてたところなんだ」 と、共鳴してくれる仲間が多かった。大きな記事でなくても、なにか気持ち…
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連載11098回 「ハオじい」との日々好日 <5>
(昨日のつづき) こちらはそろそろ引揚げたい頃合いなのだが、「ハオじい」はなかなか離してくれない。 「この公園の桜も、かなり咲いてきましたね。今年は花見も自粛ムードだけど」 「ハオ! 花なんて…
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連載11097回 「ハオじい」との日々好日 <4>
(昨日のつづき) 「ところで、えーと、あの人、ほら、なんだっけ。名前がどうしても出てこない。あー、年々、記憶力が低下してくるのは、これは仕方のない事なんですかね」 「ハオ。それが自然の理というもん…
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連載11096回 「ハオじい」との日々好日 <3>
(昨日のつづき) 「新聞は読みますが、政治や経済のニュースはあんまりね。主に寄稿文やインタービューなどを拾い読みしてます」 「もうちょっと生ぐさい情報に触れないと世捨て人になっちまうぞ。それはそう…
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連載11095回 「ハオじい」との日々好日 <2>
(昨日のつづき) 今朝も散歩の途中で「ハオじい」さんにつかまった。 できるだけ会わないようにと、日々コースを変えるのだが、それでも必ずどこかで遭遇するのはどういうことか。 坂道を上りきった…
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連載11094回 「ハオじい」との日々好日 <1>
私の古い友人に、まわりの人たちから「ハオじい」と呼ばれている人物がいる。 私と同じ九州の出身だが、昭和元年の生まれだというから、もうすぐ95歳になる年頃だろう。 長身痩躯、白い顎ひげを生やし…
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連載11093回 わが雑食性読書遍歴 <5>
(昨日のつづき) そういえば思い出したのが鶴見祐輔である。『母』とか、当時のベストセラーが何冊かあったが、本職は政治家だ。英雄偉人の伝記なども書いていて、『ヂスレリー伝』や、ほかに何冊か読んだ記憶…
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連載11092回 わが雑食性読書遍歴 <4>
(昨日のつづき) そんな乱読志向の少年だった私に、父親が買ってあたえてくれた本が何冊かあった。 当時、岩波書店から刊行されていた少国民科学入門シリーズのような一連の本である。 正確な題名は…
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連載11091回 わが雑食性読書遍歴 <3>
(昨日のつづき) 学校教師である父の蔵書は、必ずしも当時の私の好奇心を満足させてくれるものではなかった。 丸山真男のいう、当時の「亜インテリ」の知的水準は、まあ、そんなものだったのだろう。 …
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連載11090回 わが雑食性読書遍歴 <2>
(昨日のつづき) これは以前も何度も書いたことだが、昭和初期の少年たちにとっては、懐しい作家の名前が思い出される。いわゆる少年小説のたぐいだ。 武侠小説と呼ばれたりする山中峯太郎。いまでいうな…
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連載11089回 わが雑食性読書遍歴 <1>
小学生のころ、歳時記を愛読していた。 私はもともと雑食系の人間で、活字であればなんでも、というタイプである。子供の頃からそうだった。と、言うより読むものがなくなってしまうと、その辺にある適当な本…
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連載11088回 寛容と否定の狭間に <5>
(昨日のつづき) 米国がキリスト教にもとずく倫理感によって支えられていることは、森本あんり氏の言を待つまでもない。「神国米国」と私は以前から言い続けてきた。 今回のバイデン新大統領の就任の儀式…
