ラストエンペラー
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(32)モナコのレースだけは欠かさず観戦
「日本の伝統技術を?」 そんなことは考えてみたこともなかっただけに、村雨は思わず問い返した。 「例えば高級車の内装にはウッドパネルが使われていますが、日本の木材加工技術、装飾技法は独特か…
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(31)漆器も生産量が低下して高額に
こればかりは、現地で暮らしてみないことには、何ともこたえようがない。 思わず腕組みをし、天井を仰いだ村雨に、凛は続ける。 「そして、困ったことに、ガルバルディの車造りに対する考えも理解…
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(30)問題視しているのはガルバルディの理念
「ガルバルディは、極力イタリアの国内製品で車を造ることを堅持してきました。特に、内装は、イタリアのブランドメーカーと協力し、あるいは廃れ行く伝統工芸技術を活用しと、微力ながら国内産業の活性化に寄与しよ…
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(29)凛の胸中に秘めていた何かに触れた
「だから新型エンペラーはどのような車にするのか、詳細なスペックを提示しなければならないのです」 声に自然と力が籠もる。熱意の丈を村雨は訴えたつもりだったが、凛はいたって冷静だ。 「でも、…
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(28)このプロジェクトは社長直属組織に
「人間には、得手不得手があります。想像力に優れた人もいれば、実務に優れた人もいます。車造りもそうですよね。市場のニーズはどこにあるのかを調査し、新たに開発する車の方針を決め、デザインを決め、エンジンを…
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(27)スクリーンの向こうから凛の涼やかな声
凛からの返信が入ったのは、その日の午後のことである。 意向は理解した。詳しく聞きたいこともあるので、一度スカイプで話したいとあり、翌日の日本時間午前七時ではどうかとあった。 日本時間…
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(26)彼女は篠宮凛。ヨシの2歳年上だ
「もしも、もしもですよ、その方にプロジェクトの指揮をお願いしたら、引き受けていただけるでしょうか」 「それは、彼女が判断することですから、何ともおこたえしようがありませんね」 至極当然の…
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(25)イタリアに交際相手がいたとは
「松浦さん、その方と親しいんですか。どこでお会いになったんですか?」 矢継ぎ早に訊ねる村雨に、松浦は少し戸惑った表情を浮かべると、 「最初に会ったのはモンツァでしたね……」 なぜ…
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(24)彼女ならやれるかもしれない
その間に、村雨の脳裏に浮かんだのは、松浦に代わるプロジェクトリーダーのことだ。社内には、新型車の開発をリーダーとして手がけた人間がいないではないが、トミタのガソリン車のモニュメントとなる車を造ろうと…
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(23)佐村の名前が出た途端、表情が一変
「なるほど……そんな理由もあったんですね……」 納得した様子で頷いた松浦は、「では、プロジェクトチームのリーダーに私をとお考えになったからには、メンバーについてもお考えがあるわけですね?」 …
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(22)エンジニアがトミタから離れていってる!?
「私が松浦さんにお願いしたいのは、プロジェクト全体のマネージメントです。どんな車にするかは、メンバーがアイデアを出し合って、練り上げていけば──」 再度理由を口にした村雨を、 「社長………
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(21)もう車造りに割く時間がない
「とおっしゃいますと?」 「家内ですよ……」 松浦は短く漏らすと、続けていった。 「F1の世界で十一年。その間、一年のうち八ヶ月は世界中を転々とする生活を送ったんです。残る四ヶ月も…
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(20)漁師になったのは自然の成り行き
〈3〉 十年一昔とはいうものの、それ以上の時が経っても、東北沿岸部を襲った大津波の痕跡は色濃く残っている。 例えば年月を感じさせない防波堤のコンクリートの質感、なによりも雑草が生い茂る…
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<19>売れる車を造ってご覧にいれる
「最高峰の舞台で、最高のマシンを造ったあの二人が、車造りに対する情熱を失ったとは思えません。ガソリン自動車が、いや車造りのあり方が、根本から変わろうとしている今、F1であろうと、大衆車であろうと、この…
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(18)エンジニアは二度と車造りに携われない
紛れもない事実だけに、言葉を返せないでいる氷川に向かって、村雨は続けた。 「それはなぜか。高性能バッテリーの開発に成功すれば、市場はEVだけではない。電力を動力源とする、あらゆる製品に使えるか…
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(17)後世に残る最高の車でなければ
「なるほど。今後製造するのはEVのみとなれば、ガソリンエンジン開発部門の社員は余剰人員となる。他部門で吸収できる人数には限りがあるから早晩、優遇制度が公表されると読んでいるわけだ」 行動に移す…
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(16)辞めたあの2人に開発を頼みたい
「トミタへの愛着もあったでしょうが、やっぱり佐村君と三人四脚で、頂点に立ちたいという夢があったんじゃないかと思うんです」 「つまり、佐村君亡き後のF1で勝利しても意味はないと?」 「そして…
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(15)あの事故がよほど堪えたんだろう
戸倉謙太郎は、トミタのスポーツ車に搭載するエンジン開発に長く携わってきたエンジニアだ。 トミタが参戦を決めてからは、F1エンジンの開発をチーフエンジニアとして指揮してきたのだったが、撤退が決…
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(14)ガソリン車?いまさらかね?
「空いておりますが、その前に一つお考えを伺いたいことがございまして……」 村雨はソファーの上で、姿勢を正した。 「考えを訊きたい? 君が、そんなことをいうのは珍しいね。どんなことだ?」 …
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(13)私はEVだと確信していたからね
かつて、氷川はこういったことがある。 「オーナー企業は別として、サラリーマンが社長になる会社では、社員全員にそのチャンスがある。経営者に求められるのは結果のみ。部長であろうと、課長であろうと、…