五木寛之 流されゆく日々
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連載11591回 ボケとトボケの間には <5>
(昨日のつづき) ボケもトボケも、現実からの離脱という点においては変りはない。 物ごとに正面から対峙しようとしない姿勢においても同質である。 ただ、ボケは自然の退行であり、トボケは意図的な…
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連載11590回 ボケとトボケの間には <4>
(昨日のつづき) <三日見ぬ間の桜かな> という文句を、ずっと誤解していた。 咲いた桜も、3日もたつと散ってしまう。はかないものだ、と詠嘆する感じだろうと思っていたのだが、さにあらず。 …
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連載11589回 ボケとトボケの間には <3>
(昨日のつづき) 規則正しい生活もアブない。 これは私がひそかに感じはじめていたことだ。 規則正しい生活は大事である。しかし、年がら年中、ずっと一分の狂いもなく暮す生活は問題だろう。 …
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連載11588回 ボケとトボケの間には <2>
(昨日のつづき) 某出版社のベテラン編集者Q氏。 もう40年以上のつきあいだからQさんとはよばない。<Qちゃん>とよぶ。むこうも<イツキさん>だ。 定年退職して、今は嘱託。悠々と仕事を楽し…
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連載11587回 ボケとトボケの間には <1>
<男と女のあいだには、深くて暗い河がある──> と野坂昭如はうたった。 知っていることを忘れてしまうことを、ボケるという。 知っているのに知らないふりをすることをトボケると言う。 一見…
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連載11586回 メンドクサイで生きている <4>
(昨日のつづき) WBCをテレビ観戦するので、この数日間、朝食抜きの生活が続いた。 マンガをはるかにこえる超エンタメ・ドラマみたいで、観ていて恐れ入ったというのが正直な感想だ。 どんなにア…
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連載11585回 メンドクサイで生きている <3>
(昨日のつづき) モノを片付けるのが苦手だ。 大事なモノを分別し、整理して保存する、なんてことは絶対にできない。 机の上は地震のあとのように混乱している。洋服も、靴も、なにもかも部屋の壁際…
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連載11584回 メンドクサイで生きている <2>
(前回のつづき) 早期発見、早期治療、というのは健康の常識である。 どんな疾患でも事前の予兆というのはあるものだ。それを素直に受けとって、すぐに専門医に診てもらうことは、今や常識といっていい。…
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連載11583回 メンドクサイで生きている <1>
「めんどくさい」と、私はふだん言う。 「そんなこと、めんどくさくて出来るか」 というのが私の若い頃からの口ぐせである。 気になったので面倒なのをこらえて辞書を引いてみた。 <面倒臭い>(め…
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連載11582回 この春、必買の二冊
このところ新書の刊行が続く。 新潮社から『うらやましいボケかた』。 幻冬舎からは『シン・養生論』。 『うらやましいボケかた』とは妙な題名だと感じるむきも多いことだろう。高齢世代共通の不安で…
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連載11581回 常時と非常時 <8>
(昨日のつづき) 常時と非常時は、はたして対立する概念だろうか。 考えてみると人間の一生というものは、常に非常時の連続のようにも思われる。安定した平穏な時期などないからである。 ガンも、認…
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連載11580回 常時と非常時 <7>
(昨日のつづき) チリの社会主義政権に対するピノチェット将軍の軍事クーデターが成功した背後に、米国のバックアップがあったことは公然の事実だ。 サンティアゴの街は、反乱軍の戦車がキャタピラーの音…
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連載11579回 常時と非常時 <6>
(昨日のつづき) ワルシャワ条約軍がはいったプラハは、さながら戒厳令下の様相を呈していた。深夜までキャタピラーの轟音をたててソ連軍の戦車が走り、銃をかまえた兵士たちが街の各所でパトロールしていた。…
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連載11578回 常時と非常時 <5>
(先週のつづき) いわゆる『パリ五月革命』のさなかの左岸は、連日のようにデモ隊と機動隊との衝突がくり返され、あたかも戦場のようだった。 警察とちがって植民地から送りこまれたパラシューチストは戦…
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連載11577回 常時と非常時 <4>
(昨日のつづき) これまでに非常事態の国々に出かけたことが何度もあった。 出かけた、というと、なんだかそれを期待して行ったみたいだが、そうではない。ほとんどが行った場所で予期しない事態がおこっ…
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連載11576回 常時と非常時 <3>
(昨日のつづき) 年寄りが嫌われる理由が3つあるという。 1つは<むかし話>をする。 2つ目が<孫自慢>が長い。 3つ目が<病気の話>が多い。 まあ、大体こんなものだろう。私自身も…
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連載11575回 常時と非常時 <2>
(昨日のつづき) 非常時というのは、いわば戒厳令下にあるのと同じだ。そこでは平時のルールは通用しない。法律もそうだ。非常時、という規定とともに個人の人権も無視される。 それが非常時というものだ…
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連載11574回 常時と非常時 <1>
<非常時>という言葉は、かつて昭和の前期に激しく使われたものだった。 戦争の時代の一大流行語だったのである。 「この非常時に──」 と、町のリーダーや退役軍人たちが国民を叱る言葉である。 …
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連載11573回 『地図のない旅』の途上で <1>
エッセイと称するにはいささか品がなく、雑文と居直るにはパワーがたりない、そんな文章を半世紀以上も書いてきた。 取り柄といえば長く続いているくらいのものだろう。いま流行りの言葉でいえばレジリエンス…
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連載11572回 わが耳学問の師たち <3>
(前回のつづき) ターキー、こと水の江滝子さんが浅草のSKDにいた頃の国際劇場の黄金時代を私は知らない。 しかし、1950年代の後半、私は国際劇場では顔パスで劇場の食堂まで利用できる仕事をして…
