五木寛之 流されゆく日々
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連載11526回 私の体験的養生論 <3>
(昨日のつづき) 裸になって全身を鏡に写してみることがある。風呂に入る前と後と、ごく自然にそうするのが習慣になっているのだ。 何十年もそんな事をくり返していると、自分の体の現状がいやでも確認で…
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連載11525回 私の体験的養生論 <2>
(昨日のつづき) 今にして思えば、私はずいぶん変な子供だった。 まだ小学校にも上らない頃、大人に年をきかれると、 「満5歳です」 と、偉そうに答えていた。当時は<数え歳>といって、生れた…
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連載11524回 私の体験的養生論 <1>
恥ずかしながら今年の秋、90歳になった。<恥ずかしながら>というのは、格好つけでも謙遜でもない。正直なところ雑駁な人生だったと率直に思う。古い言葉ではそういうことを「馬齢を重ねる」などと言った。馬に…
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連載11523回 法螺を吹くということ <5>
(昨日のつづき) 近頃、大きな法螺を吹く人間がめずらしくなった。なるほど、と納得させられる論を展開する才人は少くない。華麗な論理を展開してみせる識者もいる。 しかし、それがホラと知りつつも、思…
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連載11522回 法螺を吹くということ <4>
(昨日のつづき) ふり返ってみれば、作家生活60年あまりの年月のなかで、私もずいぶん法螺を吹いてきた。 思い返せば、顔が赤くなるようなこともあったし、ふり返ることさえ恥ずかしい仕事もある。 …
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連載11521回 法螺を吹くということ<3>
(昨日のつづき) 私は本当のことをグジグジ呟く人よりも、元気なホラを精力的に吹き続ける人のほうが好きだ。どうせ作り話とわかっていても、一向にかまわない。 真実は、ありのままでは見えない。何かに…
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連載11520回 法螺を吹くということ <2>
(昨日のつづき) ゴータマ・ブッダ、仏陀と呼ばれた人は、神でも仏でもなかった。彼は卓越した人間だった。 小国とはいえシャーキャ族の王族の一員である。それなりの教養は当然あっただろう。 しか…
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連載11519回 法螺を吹くということ <1>
自分の書いた本について、その意図を説明する際に、前置きとして、 <自分の本のことを書くのは気が引けるが――>と書いたら、ある出版社の編集者に笑われた。 「いまの時代にそんなこと言ってるようじゃだ…
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連載11518回 オノマトペの威力 <2>
(昨日のつづき) 月並みという言葉は、江戸時代の俳諧の席から生まれたという説がある。 とりあえず批判的な言い方であることはまちがいない。 月並みなテーマ、月並みなストーリー、月並みな表現、…
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連載11517回 オノマトペの威力 <1>
<オノマトペ>というものがある。<オノマトペア>というのが正式らしい。一般に擬音語と訳される。 「雨がシトシト降っている」とか、「心臓がドキドキした」とか、「赤ん坊がギャアギャア泣く」などと、ふだん…
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連載11516回 サッカーと国民性 <3>
(昨日のつづき) 昨夜、というか今朝は、サッカーのテレビ中継を見終ってから寝たので睡眠がたりない。 以前、深夜人間だった頃は、午前零時などは、宵の口だったのだが。 朝7時半に起きて朝刊各紙…
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連載11515回 サッカーと国民性 <2>
(昨日のつづき) サッカーは走る競技である。それと同時に頭と感性の運動である。 古代日本にもボールを蹴るゲームはあった。<蹴鞠>というのがそれだ。当時の貴族の子弟らが好んでプレイした。平安末期…
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連載11514回 サッカーと国民性 <1>
先週、対スペイン戦に快勝した折りに、日本チームのメンバーや監督のインターヴューで、おや、と思ったコメントがあった。 今回の勝利はサポーターの皆さんの応援によってかちえたものです、と感謝の言葉をの…
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連載11513回 スポーツと国家の盛衰 <5>
(昨日のつづき) スポーツの階級性をいえば、卓球もまた庶民大衆のスポーツである。大正天皇が当時のピンポンを好まれたという話もあるが、もともと貴族や上流階級の遊びではない。テニスと卓球の関係は、囲碁…
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連載11512回 スポーツと国家の盛衰 <4>
(昨日のつづき) 対スペイン戦の中継は早朝の4時からだという。この2年あまり、早寝早起きの生活のリズムがすっかり定着している。午前4時といえば、白河夜船の最中だ。そこで暮らしのリズムを壊したら折角…
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連載11511回 スポーツと国家の盛衰 <3>
(昨日のつづき) スペインが7ゴールをむしり取ったコスタリカから、ジャパン・チームは1点もとれずに終った。 これまでサッカーの試合の中継を、まともに見たことがなかったが、なぜかこんどの大会は仕…
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連載11510回 スポーツと国家の盛衰 <2>
(昨日のつづき) <パンとサーカス>とは、よく言われる話だ。 民衆をなめている言葉のようだが、たしかに国家と国民の関係を反映させている定説として認めるしかない。 スポーツを体育としてでなく、…
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連載11509回 スポーツと国家の盛衰 <1>
このコラムの明日の原稿を書きながら、サッカーのコスタリカ戦の中継を観る。1点を返せないもどかしさに、原稿のほうが一向にすすまない。結局、原稿はあと回しに。 ふだんあまりサッカーは観ないのだが、W…
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連載11508回 もの言わねば唇寒し <4>
(昨日のつづき) これまでの数十年間、ずいぶん色々の体調不全があった。そのなかの一つは、睡眠時無呼吸症候群というやつで、これは結構、長く続いた。 夜中に息が止ってしまう症状である。しばらくたつ…
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連載11507回 もの言わねば唇寒し <3>
(前回のつづき) 公共施設や大学の音響について文句を言っていたら、ほかの事にも日ごろ不満に思っていたことが次々に頭に浮かんできた。 それは公共のさまざまな場所で遭遇する椅子の問題である。こんな…