「ネオ・ネグレクト──外注される子どもたち」矢野耕平氏

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「ネオ・ネグレクト──外注される子どもたち」矢野耕平著

 子どもの数は減っているのに年々増え続ける児童虐待。そのひとつネグレクトは育児放棄のことであるが、タイトルの「ネオ(新しい)・ネグレクト」とはなんのことなのか。

「ネオ・ネグレクトは私の造語ですが『衣食住に満ち足りた生活をしていても、親がわが子を直視することを忌避したり、わが子に興味関心を抱けなかったりする状態』です」と、著者が説明する。

 本書は、30年以上中学受験の世界に携わり、2人の子どもの父親でもある著者が、近年、子どもと関わろうとしない自分本位の親が増加し、子育てを過度に外注(アウトソーシング)するネオ・ネグレクトの広がりに警鐘を鳴らす一冊である。さまざまな実例や当事者である母親、教師、被虐待児の声を紹介し、その社会的背景と問題点を探り、ネオ・ネグレクトを減らすための親のあり方を提案する。

「ネオ・ネグレクトを意識し始めたのは8~9年前でしたね。経営する塾で、受験間近の児童の保護者と進路面談をして受験校を決定しようとしていたとき、『面倒くさいから先生が全部決めて下さい』と言われ、驚きました」

 子への関わり方の変化は中学受験がきっかけばかりではない。ある都心の公立小学校では下校時間になると校門前に、民間学童などが手配した送迎サービスのマイクロバスが並ぶ。そこに乗り込んでいく小学生は月曜から金曜まで放課後を学童で過ごすが、そこから毎日、塾やスイミング、英会話やバレエ教室に通っているという。子どもの平日のすべてがアウトソーシングされているのだ。この民間学童の費用は月に15万円超。この金額に驚くばかりだが、決して特殊なケースではないそうだ。

 子育てのアウトソーシングは誕生した直後から利用することも可能だ。

「産後ケア事業の実施は2021年度から自治体の努力義務となっています。この事業は民間も参入しており、あるホテルでは新生児をベビーシッターや看護師に預け、母親はアロママッサージを受けるなどくつろいで豪華な食事が用意されて外出もできる。母子1組あたり1泊20万円で、何カ月か滞在する母子もいるそうです」

 出産直後の母親の心身のサポートは大切であり、ひいては少子化対策にもなる。また、現代では泣かせない子育てが主流で、すぐにおしゃぶりを与えたり、スマホで動画を見せたりするスマホ育児がはやりでもある。これらは一見母親に優しい育児だが自らの精神安定を重要視する点はネオ・ネグレクトと構造が似ていると著者は指摘する。

「ネオ・ネグレクトは親も子も自覚しにくい性質があります。しかし、子どもにとって親は判断基準、世界そのものなんです。愛されなかったという思いは成人したとき、他人との距離感がうまくいかない、自己肯定感が低いなどの影響が心配されます」

 もちろん、母親だけが悪いわけではない。ネオ・ネグレクトの背景には、地域の共同体の喪失、共働き世帯の増加、タイパ・コスパ重視の風潮といった構造もあり、すぐには減少しない。

「子育てに関するサービスはありがたいですが、親はわが子を自分が守るという意識を持ち、どこかで線引きしてほしい。サービスを活用はしても利用されないようにしてほしい。親の愛情は外注できないのですよ」 (祥伝社 1045円)

▽矢野耕平(やの・こうへい) 1973年東京都生まれ。中学受験指導スタジオキャンパス代表。法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻修士課程修了。著書に「ぼくのかんがえた『さいきょう』の中学受験」など18冊。子育てや受験をテーマにオンラインメディアに記事多数。

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