五木寛之 流されゆく日々
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連載11244回 虚構の真実のラビュリントス <4>
(昨日のつづき) 20代の頃の私が編集長兼カメラマンをつとめていたのは、『交通ジャーナル』という吹けば飛ぶような業界新聞だった。業界紙といっても日刊一般紙に負けない堂々たる新聞も沢山ある。最近は専…
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連載11243回 虚構と真実のラビュリントス <3>
(昨日のつづき) ここで訂正をひとつ。 昨日のこのコラムで字の間違いが1つあった。<(前略)ヘミングウエイふうに強直であり、同時にチャンドラー的に優しい。(後略)>という部分の強直は、もちろん…
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連載11242回 虚構と真実のラビュリントス <2>
(昨日のつづき) 写真集『奴は…』のオビには<長濱治が捉えた北方謙三40年の軌跡――。 今の時代に足りない強さと愛らしさが濃縮された「北方ダンディズム」の極致>とある。 『奴は…』の作者名は長濱…
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連載11241回 虚構と真実のラビュリントス <1>
とんでもない写真集が出た。 写真家・長濱治が作家・北方謙三を撮った『奴は…』という重量感たっぷりの一冊である。私は本を、その重さで評価する悪癖があり、新刊を手にしたとき、軽量、中量、重量級と分別…
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連載11240回 ニュー・ノーマルの風景 <5>
(昨日のつづき) 造語というのは、新しい言葉を勝手に作ることである。言い替えというのは、事実をゴマ化すために造語することだ。 戦争の時代、いろんな言葉が言い替えられた。有名な例は全滅を「玉砕」…
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連載11239回 ニュー・ノーマルの風景 <4>
(昨日のつづき) マスク生活が定着したのはいいが、初対面の相手の顔がおぼえられなくて困っている。 「どうぞよろしく」 と、名刺交換をしても、 「ちょっとマスクを外して、お顔を拝見できません…
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連載11238回 ニュー・ノーマルの風景 <3>
(昨日のつづき) 昨日のこの欄で紹介したミュージックBOX『歌いながら歩いてきた』について、問い合わせがいろいろあったので、簡単に説明させていただく。 このミュージックBOXは、私の「音楽・歌…
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連載11237回 ニュー・ノーマルの風景 <2>
(昨日のつづき) 先週末、NHKの放送センターへ出かけて、夜のラジオ番組の録音をした。 金田一秀穂先生がパーソナリティーをつとめる『謎解きうたことば』という夜の番組である。 ラジオのパーソ…
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連載11236回 ニュー・ノーマルの風景 <1>
今朝、ちかくの公園を散歩していたら、おなじく散策中の人たち何人かとすれちがった。 驚いたことに、それらの人たちが全員、下を向いて歩いていたのだ。 うなだれて歩いているわけではない。要するに手…
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連載11235回 対談は時代を映す <5>
(昨日のつづき) この原稿を書いている最中に、机が大きく揺れた。どうやら震度5程度の地震らしい。 こういう時は、あわてて外へ飛びだしたところでろくな事はない。揺れが一段落したところで、また原稿…
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連載11234回 対談は時代を映す <4>
(昨日のつづき) 今回、昔の『真夜中対談』を読み返して、当時の週刊誌の対談というのは、どうしてこんなに自由で面白かったんだろうと感慨をおぼえた。こういう会話が大新聞社の週刊誌に堂々とのっていたのだ…
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連載11233回 対談は時代を映す <3>
(昨日のつづき) 『真夜中対談』(文藝春秋刊)は、永六輔さんに始って、24人のゲストが名を連ねている。ひととおり列挙しておくと、 冨士眞奈美さんは、すでに紹介した。 ○永末十四雄(川筋気質と庶…
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連載11232回 対談は時代を映す <2>
(昨日のつづき) 永六輔さんとの対談は『真夜中対談』のシリーズのトップのゲストだった。 こちらがサービスしなくても、永さんのほうから面白い話をどんどん提供してくれる。サービス精神旺盛なのは冗談…
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連載11231回 対談は時代を映す <1>
<対談>というのは、表現の原初的な形態である。人は独白する前に、他人と話し合った言葉だけでなく、身振りや表情、また声色や笑いなどによっても相互に交流した。 <対談>の場、というものがある。その時、そ…
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連載11230回 「ボケの効用」について <5>
(昨日のつづき) 昨日、89歳になった。奇しくも石原慎太郎氏と生年月日が一緒だから、彼も同じ年令に達したのだろう。 「97歳、なにがめでたい!」 というのは、先輩、佐藤愛子さんのタンカだが、…
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連載11229回 「ボケの効用」について <4>
(昨日のつづき) 私がいろいろ教えを受けた先輩がたの中で、これは多少ボケが入ってきたな、と感じる人は、ほとんどいない。 かなり高齢のかたでも、喋ることはしっかりしていた。と、いうより、若い後輩…
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連載11228回 「ボケの効用」について <3>
(昨日のつづき) このところ新聞や雑誌を読んでいて気になるのは、活字の世界に対して、どことなく自信なげな雰囲気が行間に漂っていることだ。 メディアの栄枯盛衰は世の常である。 映画が登場して…
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連載11227回 「ボケの効用」について <2>
(昨日のつづき) 最近、週刊誌などで「ボケ防止に役立つトレーニング」などという記事を、よく見かけるようになった。 高齢化ナンバーワンのわが国では、国民のボケ防止も急務であるらしい。たとえば高齢…
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連載11226回 「ボケの効用」について <1>
<ボケる>という言い方は、なんとなく失礼な気がするところがあって、あまり気軽に口にできない感じがする。 しかし、アルツハイマー病とか、痴呆とかいうリアルな言い方は、どうも好きになれないのだ。まだし…
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連載11225回 続・先週読んだ本の中から <13>
(前回のつづき) べつに政府の「緊急事態宣言」に従順にしたがっているわけではないが、このところ完全に外出することなく、室内にこもって暮らしてきた。こうなると、本を読むか原稿を書くかしかない。食事の…