ベアリングの常識を破った中小企業に注目が

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保持器をなくしたADB(自律分散式転がり軸受け)

 今も昔も日本の産業の発展を支えてきたのは、独自の技術力やノウハウを持った中小企業だ。

 国内では名前を全く知られていないものの、世界中から注目されている企業も少なくない。

 そんな中ベアリングの分野で、ある中小企業が話題を集めている。

 ベアリングは機械を構成する要素の一つとして車輪や歯車、タービンなどを取り付けた回転する軸を支えて荷重を受け、滑らかに回転することを助ける。

 自動車や航空機、冷蔵庫やエアコンなど生活に欠かすことのできない身近な製品にもベアリングが使われている。

 一般的にベアリングは直径1センチの小さなものから6メートルを超えるような巨大なものまで構造は変わらず、内輪、外輪、玉、保持器の4つの部品で構成される。

 この中で保持器には玉同士を接触させないようにするため、玉と玉の間隔を一定に保って摩擦や摩耗を防ぐという役割を果たしているが、一方で、玉と保持器が摩擦することで滑らかな動きが阻まれてしまい、トラブルを引き起こす原因にもなる。

 そこで注目を集めているのが株式会社空スペース・河島壯介社長が開発した保持器のいらないベアリング「自律分散式転がり軸受け(ADB)」だ。

摩擦によるトラブルを防ぎ、メンテナンスも不要に

「保持器の考え方は今から500年前、レオナルド・ダ・ビンチが考えた人力ヘリコプターのベアリングにあります。そこから変わっていないと言ったら怒られるかもしれませんが、基本的には同じでほとんど変わっていないです」と笑う河島社長だが、500年もの長い間、誰もが手をつけてこなかった「常識」にあえてチャレンジし結論を導き出したところに開発の意義があるといえる。

 ADBの仕組みは一口でいえば保持器の代わりに外輪の一部に溝を設け、玉がその溝を通り過ぎる際の減速と加速を利用して次に続く玉に接触しない構造にする。つまり、これにより、保持器なしでも玉同士が接触しないというわけだ。

 これによってベアリングならではの摩擦によるトラブルを避けることが可能になるが、ADBのメリットは決してそれだけではないと河島社長は力説する。

「保持器があっても、玉と保持器の摩擦を抑えるための潤滑油は必要です。ところが、玉が潤滑油を撹拌するのに消費されるエネルギーは、玉が単に転がるだけの場合の50倍必要なのです」

「また、油というのは液体ですから使っているうちに減っていくし、ゴミや水を吸いつけたりするので、定期的なメンテナンスが必要になる。その点、ADBには保持器が不要なので、手間がなくなり、大きなメリットになるのではないかと思います」

 河島社長のこの言葉を裏付けるように、同社には世界中の企業からの問い合わせが来ているそうだ。

予測の難しい経験産業

 ベアリングを使った機械でさまざまな活動や生産を行っている企業にとって厄介なことがある。

 ベアリングの故障や不具合は予測できないということだ。

 この点に関して河島社長は、「ベアリング業界は経験産業。やってみなくちゃ分からないという部分がある。例えば風力発電に使われている羽を回しているベアリングにしても、いつ壊れるのか予測できないのが実情。現状では壊れたものを新しいものに交換するしかない」という。

 大きな需要が見込まれるADBだが、河島社長が期待しているのがフライホイール発電だ。

 これは電気が持つエネルギーを一時的に回転運動の運動エネルギーに変換することで保存し、電気が必要な時に回転運動から発電によって電気を得ようというもの。

 例えば、電車がホームに入ると停まるためにブレーキをかける。その際モーターが発電機になって架線に電気を戻し、再び発車する時にエネルギーを車両に戻して省エネになるというのがフライホイール発電の有効利用の一例だ。

 「ここにもADBのメリットが生かされるのではないでしょうか」と河島社長は言葉に力を込める。

 同社では今後、ADBで取得した特許を生かしライセンス販売に注力していく。同社には大いに注目しておきたい。

提供:空スペース

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