五木寛之 流されゆく日々
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連載10887回 ニュース落穂拾い <2>
(昨日のつづき) きょうは新聞の休刊日。 なぜ各紙いっせいの休刊なのだろうと不思議に思う。全員そろって何かやる、一斉に行動する、というのが日本人はよくよく好きらしい。 あとはテレビにまかせ…
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連載10886回 ニュース落ち穂拾い <1>
さあ、明日から仕事だぞ、と張り切るわけにもいかない複雑な気分の5月である。 部屋にこもっているあいだに、しばらくはテレビに凝っていた。しかしBSだの、昔のドキュメント映像だのも見ているうちに、や…
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連載10885回 コロナ時代のテレビ <4>
(昨日のつづき) やはりマスクをつけて喋っていると、どうも自分の言葉がはっきりしない。 声というのは、その人間のエネルギーをそのまま反映するものである。朝、おきて声がちゃんと出るときは、一日ず…
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連載10884回 コロナ時代のテレビ <3>
(昨日のつづき) このところずっと考えていることがあった。 それは人間の値うちということである。最近はコスパなどという言葉がはやって、いろんなものにランクをつける傾向がある。 こんどのコロ…
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連載10883回 コロナ時代のテレビ <2>
(昨日のつづき) 問題発生といっても大した事ではない。要するに録画の際にマスクを着用してもらいたいという話である。 最初はちょっと戸惑うところがあった。私は眼鏡をかけている。そこに幅広のマスク…
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連載10882回 コロナ時代のテレビ <1>
4月26日、午後6時半、同行のI氏と共に日本テレビ麹町の番町スタジオへ。 連休の暮方の街には人影も少い。外出自粛のさなかにテレビ局にむかうのは、インターヴュー録画のためである。 こんな時期に…
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連載10881回 六世紀以来の変事 <5>
(昨日のつづき) 女優の岡江久美子さんがコロナで亡くなったことをテレビが各局きそって報じている。いい女優さんだったので、残念だ。 なんとなく峠をこして、多少、下火になったような印象のあるコロナ…
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連載10880回 六世紀以来の変事 <4>
(昨日のつづき) こんどのコロナ禍のいちばんの問題は、世の中の価値観が大きく変ることではあるまいか。 つい先ごろまでは「絆」ということが大きく語られていた。離れてしまった人々の心や関係を、ふた…
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連載10879回 六世紀以来の変事 <3>
(昨日のつづき) このところ新聞をよく読むようになった。毎日、すべての新聞を丹念に読む。 一紙だけを読み続けていると、どうしても頭がその新聞ふうになってしまう。私の場合、連載をやっている関係で…
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連載10878回 六世紀以来の変事 <2>
(昨日のつづき) 奈良斑鳩の法隆寺が参拝中止に踏み切ったという。創建以来、はじめてのことだと寺の人が語っていた。 事情はわからぬでもない。法隆寺にまいってコロナに感染したと言われては、困るだろ…
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連載10877回 六世紀以来の変事 <1>
大阪の四天王寺といえば、創建以来1500年以上の歴史をもつ寺である。 聖徳太子の命によって建立されたといわれ、無宗派の寺として広く庶民に親しまれてきた。『百寺巡礼』という番組でその寺を訪れたとき…
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連載10876回 相続されない「歴史」 <5>
(昨日のつづき) 紀伊国屋書店がしばらく休業するという。東京都の勧告では、書店は休業の対象になっていないのだが、社会的影響を考慮しての決断だろうか。 カフェやレストランでの対策をテレビで識者が…
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連載10875回 相続されない「歴史」 <4>
(昨日のつづき) いま世界が揺らいでいる。超大国、アメリカと中国が大きく傾き、欧州諸国も戒厳令下のような有様だ。 施設封鎖、都市封鎖、そして国境封鎖と、世界各国が身をすくめて孤立を競っている。…
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連載10874回 相続されない「歴史」 <3>
(昨日のつづき) 私は日本国の敗戦を北朝鮮の平壌で知った。8月15日には、すでに平壌駅は南下する上級国民の家族でごった返していたという。 家財道具まで積み込んだ陸軍の重爆撃機は、次々と本国へむ…
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連載10873回 相続されない「歴史」 <2>
(昨日のつづき) カミュの『ペスト』がベストセラーになっているという。『ペスト』は『異邦人』とくらべて、すこぶる地味な読まれかたをしてきた作品だった。 私たちが大学生だった1950年代、仲間の…
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連載10827回 相続されない「歴史」 <1>
10日金曜日の読売朝刊。1面トップに<「大恐慌以来の不況」予測>という文字が躍っている。IMF(国際通貨基金)の専務理事が講演でそう語ったというのだ。 「大恐慌」というのは、言うまでもなく19…
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連載10871回 今なぜ『大河の一滴』か <5>
(昨日のつづき) いまの世の中をどう考えるか。 正直いってマトモではない。本気で正視するとため息しか出てこない現実だ。 しかし、考えてみよう。では、いつの時代が今とちがう<清く正しく美しい…
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連載10870回 今なぜ『大河の一滴』か <4>
(昨日のつづき) C・W・ニコルさんが亡くなった。古い友人が次々と先立っていく今日この頃だが、ほとんど自然な感じで受け止められるのは、自分が高齢のせいだろう。 ニコルさんとは、いろんなことがあ…
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連載10869回 今なぜ『大河の一滴』か <3>
(昨日のつづき) 数年前に新潮社から『マサカの時代』という新書を出したことがある。『マサカの時代』とは、なんとなく変な題名である。しかし、私の実感としては、やはり「マサカ!」「マサカ!」の連続する…
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連載10868回 今なぜ『大河の一滴』か <2>
(昨日のつづき) いよいよ非常事態宣言である。 戦後七十余年、はじめて国が主役の座に登場することになった。 きょう一日、終日、仕事部屋に閉じこもり一歩も外へ出なかった。こんなことは、私個人…
