五木寛之 流されゆく日々
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連載10725回 さくらんぼ駅から <5>
(昨日のつづき) 寒い。 真夏に寒いというのは変だが、最近のビルやオフィスはめったやたらと冷房がきいているのだ。どんなに暑い日でも、ジャケットを手離なさないのはそのためである。 この国の将…
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連載10724回 さくらんぼ駅から <4>
(昨日のつづき) この数日は、ほとんど臨戦体勢だった。9月下旬に出る『青春の門』第九部(漂流篇)のゲラ直しを終えたと思ったら、引き続き『小説現代』(江戸川乱歩賞特集号)のための原稿に忙殺されていた…
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連載10723回 さくらんぼ駅から <3>
(昨日のつづき) 河北町で90分の話をする。 創立10周年を迎える市民講座の10周年記念の催しだ。各地で市民大学のような催しは少なくないが、最近、廃止になるところが多い。そんななかで10年がん…
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連載10722回 さくらんぼ駅から <2>
(昨日のつづき) 車中で原稿を書く際に、どうしても欠かすことのできないものがある。私の場合はコーヒーだ。カフェインに弱いので、カップの3分の1ぐらいしか飲まないのだが、あの匂いが必要なのだ。まあ、…
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連載10721回 さくらんぼ駅から <1>
暑い。室内がエアコンで冷えているだけ、外の熱気がこたえるのだ。 きょうは午前9時半に起きた。ふだん午前中に起床することなどめったにない。昨日は午後4時に目覚めている。そうなると夜に早く眠りにつく…
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連載10720回 散るモミジのように <5>
(昨日のつづき) 人の長寿を決めるものは何なのか。 普段の節制か。バランスのとれた食事か。規則正しい生活か。 どうもそれだけでもなさそうだ。遺伝ということもあるだろう。時代ということもある…
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連載10719回 散るモミジのように <4>
(昨日のつづき) 『長命伝』を書きたいと喋ったら、親しい編集者が何人かの90歳を超えた長寿者の名前を教えてくれた。 あらためて90歳以上の長寿をまっとうされたかたがたの少くない事に驚く。 森…
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連載10718回 散るモミジのように <3>
(昨日のつづき) <散るモミジのように>というこの回の題名は、もちろん世間によく知られている一句のモジリである。 裏を見せ 表を見せて 散る紅葉 わかるような、よくわからないよう…
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連載10717回 散るモミジのように <2>
(昨日のつづき) 仏教の出発点は、人生を『苦』と考えるところにあった。この『苦』とは、単純に苦しみとか、苦悩とかいったものではないだろう。 しかしこの世が不条理にみちていることは、子供でも感じ…
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連載10716回 散るモミジのように <1>
生きていることには、苦しい事もあれば楽しい事もある。真実もあればフェイクもある。表があるということは、裏もあるということだ。表だけの存在など、この世界にはありえない。 しかし、その見方は、どちら…
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連載10715回 原稿用紙が消える日 <4>
(昨日のつづき) この『日刊ゲンダイ』の連載コラムの原稿は、見出しこみで3枚弱である。スタート直後は<しゃべくり年代記>と銘打って、わざと喋り口調で原稿を書いていた。しばらくすると普通の原稿になり…
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連載10714回 原稿用紙が消える日 <3>
(昨日のつづき) 私が原稿用紙に文章を書くようになったのは、一体いつ頃からのことだろうか。 中学から高校にかけての少年時代、ガリ版刷りの小雑誌や、高校新聞に文章をのせたことがある。いま振り返っ…
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連載10713回 原稿用紙が消える日 <2>
(昨日のつづき) 学生の頃、ヘミングウェイがタイプライターで原稿を打っている映像を見たことがある。 アメリカの作家は進んでいるなあ、と複雑な気持ちになったものだった。 さらに、名前は忘れた…
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連載10712回 原稿用紙が消える日 <1>
冷房が苦手なので、ほとんど半裸の姿で部屋にこもっている。原稿とゲラ直しの仕事が山積していて、働き方改革など関係ない日々が続く。 分厚いゲラの山が、今にも崩れ落ちそうに机の上に山積みになっている。…
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連載10711回 雑読、濫読の夏は来ぬ <5>
(昨日のつづき) 私の本の読み方は、基本的に速読である。古典を読む場合でも、一言一句を噛みしめるような読み方は苦手だ。なにしろ本の数は多く人生は短い。一冊の本を一生賭けて読み通すという読み方もあろ…
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連載10710回 雑読、濫読の夏は来ぬ <4>
(昨日のつづき) この1週間ほど、例によって雑読の日々が続いた。『ゴーストマン 時限紙幣』(ロジャー・ホッブズ/文春文庫)、『コールド・ロード』(T・ジェファーソン・パーカー/早川書房)などを読む…
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連載10709回 雑読、濫読の夏は来ぬ <3>
(昨日のつづき) このところ毎週、月曜日は音羽の講談社へ通っている。夕方に出社して、翌日の未明まで、人気のない社内の一片隅でゲラ直しと執筆の時間を過ごすのだ。 こういう状態を、昔はカンヅメと言…
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連載10708回 雑読、濫読の夏は来ぬ <2>
(昨日のつづき) いろんな本を読んでいるうちに、ふと立ち止ってしまうことがある。 どう読めばいいのかわからない漢字が文章の中に出てくる場合だ。子供の頃から講談本や大人の本を読みあさってきたので…
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連載10707回 雑読、濫読の夏は来ぬ <1>
酷暑の続く日々だが、こちらは冷房病で悩まされている。高齢者にとっては、暑さよりも冷えのほうが辛いのだ。ジャケットを常時、持ち歩いていても、それでもなお寒さに耐えられない時がある。 カフェなどで客…
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連載10706回 老化の実体について <5>
(昨日のつづき) 穏かな老後、などというものはない。 まれにそういう人もいるだろう。しかし、それは半分ボケている状態かもしれないのだ。 身体は日々おとろえていく。精神活動もしかりだ。下降し…