萩本欽一〈56〉告白します 仮死状態で生まれた三男「征九郎」の名前に込めた思いと妻の「奇麗な涙」
作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。
◇ ◇ ◇
増田「三男が仮死状態で生まれたとき、将来どの程度の障害が残るかは、すぐにはわからなかったんですか?」
萩本「わからない。それで先生に『いつわかるんですか?』って聞いたの。そうしたら『ママとか言うようになれば何でもないですよ』って。それからもう1つ、神経がちゃんとしてるかどうかを見る方法があるって。赤ちゃんの手に指を入れると、キュッと握り返すでしょう。『これができれば意外と順調です』って言われたの」
増田「それで毎日、手を握った」
萩本「そう。帰ってくるたびに、ちょっとずつ指を入れるのよ。そうするとキュッと握るの。本当にね、涙がポロッと出るの。『おまえすごいなあ。すげえなあ』って。俺ね、思ったの。番組は30%いってたのがコケたけど、神様、おまえのところへ運が行ったなって」
増田「空に向かって願ったことが、本当にかなった」
萩本「そうなの。それでね、ある日帰ったら、(妻の)スミちゃんがすごく奇麗な涙を流してるの。普段、私のことを『あなた』なんて言わない人が、『あなた、ちょっと。あの子、ママって言った』って。泣きながら言うのよ。その涙がね、なんとも言えないの」
増田「先生から『ママと言えば大丈夫』と言われていた」
萩本「そう。だから『ママって言った』っていうのは、ものすごく大きなことなの。俺もそこで何か格好いいこと言えばいいでしょう。ところが俺、すかさず『パパって言わなかったの?』って言っちゃったの(笑)」
増田「コメディアンですからね(笑)」
萩本「スミちゃん、ニッコリ笑って首振ってるの。俺、自分で思ったよ。『こういうときにギャグ言うなよ、おまえ』って(笑)。でも、いいセリフって出てこないんだよな。あんな大きな涙を流しながら『ママって言った』って言ったときの顔は、なんとも言えなかったね。ドラマ見てるようだった。『最高のドラマを見ちゃったな』と思った」


















