“絶対に負けられない初戦”で板倉と冨安を温存、最弱チュニジア戦に先発 これこそW杯優勝への道筋だった
「森保一」という監督の頭の中は、我々メディアの浅薄な想像を常に超えていく。
森保監督との共著「『森保ノート』の真実。」の中で、彼がいかに冷徹な現実主義者(リアリスト)であるかを書き記したが、それを象徴するような出来事がある。
私が彼を「ムッとさせた」2回目のエピソードだ。
時は2025年末。翌年に北中米ワールドカップを控え、偶然2人で短く会話を交わしたことがあった。
当時の日本代表は確かな成長を見せており、「優勝」という目標を掲げていたが、ワールドカップという魔物が棲む舞台において、現実的に考えれば「どこかで強豪国に敗れる」のは避けられないという認識でいた。
私は会話の終わりに、その前提で何気なく口を開いた。
「来年のワールドカップは、現実問題としてどこかで負けると思うのですが……」
さらに「そこまでの成果を無にしてはいけない、プロセスを正当に評価すべき」と続けようとした。 森保監督はピシャリと遮った。そして、静かに、だが語気を強めてこう呟いたのだ。
「優勝を目指していて、負けることは考えていないのですがね」
私は言葉を失った。正直に言えば、心の中で「また綺麗事を」と少し冷笑していた部分があった。ベスト8の壁すら越えたことのないチームが「優勝」を目標に掲げるなど、あまりにも非現実的だ。
シビアに現実を見つめ、石橋を叩いて渡るような堅実な采配を得意とするこの男が、そんなフワフワした「夢」を本気でターゲットにしているとは到底思えなかった。
私は「立場上、そうおっしゃるのも分かりますが……」と食い下がった。彼は納得していないようだったが、すぐにいつもの柔らかな表情に戻り、次の質問に淡々と答えてみせた。
だが、私のこの浅薄な見立てがどれほど的外れだったか、思い知らされるのは、それから半年後、2026年北中米ワールドカップ本番でのことだった。
初戦の相手は、グループ内で最強のオランダ。過去の大会を見れば、日本は絶対に負けられない初戦に、持てる最強の布陣をぶつけるのが常識だった。
ところが、ふたを開けてみれば、守備の要である冨安健洋と板倉滉が先発にいない。
万全ではない状態とはいえ、この大一番で主力を外すのか──。
日本は終了間際に同点に追いつき、ドローに持ち込んだものの、私は「これでは勝ち進むのは難しい」と悲観していた。
ところが、続く第2戦。グループ最弱と目されていたチュニジアを相手に、なんと冨安も板倉も先発フル出場を果たしたのだ。
この瞬間、すべての点と線が繋がった。


















