五木寛之 流されゆく日々
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連載11064回 「鬱」をどう考えるか <13>
(昨日のつづき) リスボンの暗い下町を歩いていると、ふと地の底から湧いてくるような歌声を耳にすることがあります。いや、ありました、と書くべきでしょうか。私の若い頃、もう半世紀以上も昔の話ですから。…
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連載11063回 「鬱」をどう考えるか <12>
(昨日のつづき) 以前、『戒厳令の夜』という長篇を書いたことがありました。映画になったりもしたので、年輩のかたのなかには憶えておられる向きもおありかもしれません。 映画の出来は、いま一つ、とい…
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連載11062回 「鬱」をどう考えるか <11>
(昨日のつづき) このところ若い人たちの自殺が増えてきているらしい。コロナで死ぬのは、圧倒的に高齢者で、自殺は若年層。特に女性の自殺数が急増しているようです。 専門家の意見として、鬱病がその大…
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連載11061回 「鬱」をどう考えるか <10>
(前回のつづき) 金沢の古い下町の話の続きです。 小路が迷路のように入り組んだ一画を歩くと、大正時代か明治の頃を連想させる家並みが続いています。 その低い家並みの玄関の柱に、なにやら金属の…
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連載11060回 「鬱」をどう考えるか <9>
(昨日のつづき) 二葉亭四迷が『ふさぎの虫』と訳したロシア語の「トスカ」。 これにもっともふさわしい日本語は、なかなか見当りません。あえて考えるなら、古代からこの国に伝来し、明治期に突然、復活…
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連載11059回 「鬱」をどう考えるか <8>
(昨日のつづき) むかし聞いた話で、忘れられないエピソードがあります。 シベリアの果ての寒村に、イワンさんだかニキータさんだか、その地に生まれ育った農夫がいる。 朝は、日の出とともに畠にで…
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連載11058回 「鬱」をどう考えるか <7>
(昨日のつづき) この二葉亭四迷が訳したゴーリキーの中篇小説の題が『トスカ』です。 「トスカ」とは、一般のロシア語の辞書などでは、「憂鬱」「憂悶」「憂愁」「気がふさぐ」「哀愁」など、いろんな感情…
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連載11057回 「鬱」をどう考えるか <6>
(昨日のつづき) 話をもとにもどします。放談ですからどこまでもコースアウトすることを承知でつきあってください。 さて、後年になって私はゴーリキーの風変りな中篇を読みました。「トスカ」というのが…
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連載11056回 「鬱」をどう考えるか <5>
(前回のつづき) 「え? いまどきゴーリキーですか」 と、ロシア文学関係の評論家から呆れたような顔をされたことがありましたが、それが最近の一般的な見方かもしれません。 たしかにゴーリキーはソ…
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連載11055回 「鬱」をどう考えるか <4>
(昨日のつづき) ところで「鬱」とは少しちがったニュアンスで、「愁」という語があります。「旅愁」「哀愁」などの「愁」です。 これも心がしみじみと透明に沈む感じですが、暗いイメージはありません。…
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連載11054回 「鬱」をどう考えるか <3>
(昨日のつづき) 年が明けてから北陸は大雪に見舞われています。「鬱」の考証はひとまずおいて、金沢の「雪吊り」の件にもどりましょう。 「雪吊り」は、「ユキツリ」と読みます。「ユキズリ」ではない。ず…
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連載11053回 「鬱」をどう考えるか <2>
(昨日のつづき) 「鬱」という字を眺めてみると、いかにも厄介な感じがします。なによりも字画が多いし、どこか暗い感じがある。 しかし「鬱」を辞書で引いてみますと、その第一義は「しげる」「こんもりと…
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連載11052回 「鬱」をどう考えるか <1>
鬱は力である。 私はそう思います。「鬱」は生きるエネルギーであり、パワーである。そう信じて今日までやってきました。 「鬱」という字が常用漢字に採用されたのは、かなり前のことです。それまでは新聞…
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連載11051回 嵐の前の静けさか松の内 <5>
(昨日のつづき) 新型コロナの新規感染者の数字がハネあがっている。2度目の緊急事態宣言が、はたして有効かどうか。 米国ではとんでもない事態がおこっているらしい。ワシントンの連邦議会にトランプ支…
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連載11050回 嵐の前の静けさか松の内 <4>
(昨日のつづき) 昨日、「数え年なら90歳だぞ」と、若い編集者に威張ったら、 「数え年って何ですか」 と、きき返された。 そうあらためてきかれると、心もとなくなってくる。後で広辞苑を引い…
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連載11049回 嵐の前の静けさか松の内 <3>
(昨日のつづき) 米国のコロナ感染者数、2063万9219人。死者、35万1580人。 とほうもない数字だ。人口のちがいはあっても、わが国の感染者24万9000人、死者3700人弱とくらべると…
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連載11048回 嵐の前の静けさか松の内 <2>
(昨日のつづき) 正月は私にとって、すこぶる気の重い時期である。その最大の問題は年賀状だ。 世間には毎年とどく賀状を楽しみにしておられるかたもいらっしゃることだろう。そういうかたは、ご自分もち…
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連載11047回 嵐の前の静けさか松の内 <1>
コロナの嵐の中に新年が明けた。 米国の感染者は2000万人を超え、死者の数も35万人に達する勢いである。 それでもおおかたの予測では、今年の5月頃には鎮静化するということらしい。それぐらい楽…
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連載11046回 コロナの一年をふり返る <6>
(昨日のつづき) どうやら新しい鎖国がはじまったようだ。 政府は変異種コロナの予防のために、全世界からの新規入国を禁止。 新しい年を迎える間際に、新造ワクチンと変異コロナの激闘が開幕する。…
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連載11045回 コロナの一年をふり返る <5>
(昨日のつづき) 「来年はどうなるんでしょうね」 と、いった質問をしばしば受けることがある。 「マサカ、マサカの連続だと思うよ」 「先行きが見えないということですか」 「だって、毎年、年末…