あいつらの末路
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(33)紋次郎のためにも稼がなくては
結局、連載の具体的な話はないまま、食事会はお開きとなった。 これも、睦代の手口だ。言い出しっぺなのに、いつのまにか受け身に回る。今回も、「小説をぜひ書かせてください」と、まるでこちらが懇願し…
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(32)ゴミの家という繭の中にいるよう
「っていうか、なんなの、その旦那!」 どうしても我慢ならず、朝美は口を挟んだ。 「家からひとり逃げ出しただけでなく、カードの支払いまで妻に押しつけるなんて。景子さんはなんで、離婚しないの…
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(31)私の貯金も底をつきました
「ほんと、そこが落とし穴なんですよね」 睦代は、どこか楽しげな調子で言った。 「安い!と思って飛びついたはいいけれど、管理費が高くてすぐに引っ越した……という話はよく聞きます。リゾートマ…
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(30)駅まで続く斜行エレベーター
──「夫が戻らなくなったのは、半年前からなんです」 景子さんは、三本目のペットボトルを開けながら、そんなことを言いました。 半年前っていったら、ハワースの丘に移住してきてから半年で、…
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(29)ゴミ出しでご近所トラブルに
「水を飲めば飲むほど、健康にいいって? まさか!」 朝美は、肩をすくめた。 確かに、水分は大切だ。足りなければ脱水状態になり、命の危険もある。でも、飲み過ぎたら、それはそれで、今度は水…
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(28)喉の乾きが酷いんですよ
「もしかして、あの家、事故物件とかだったりして?」 睦代が、傍らのスマートフォンに指を滑らせた。 「うーん、事故物件サイトには、特にマーキングはされていませんね」 「実は──」 …
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(27)ジェラートを前に話に夢中
睦代が、ポテトフライを頬張りながら、自身の黒歴史を語っていく。 「トドメだったのが、ゴミの分別がさらに厳しくなったこと。なんと、分類が七種類になったんですよ! しかも、当時は忙しい盛り。会社に…
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(26)朝美の一番の不安は老後のこと
朝美は鳩尾を撫でつけた。ここのところ、十二指腸潰瘍が再発している。この病の原因は、いわずもがな、ストレスだ。特に、不安だ。 朝美の一番の不安は、老後である。老後のためにも、蓄えを増やさないと…
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(25)景子さんの家はゴミ屋敷でした
睦代は、ぶるっと体を震わせながらも、最後の熟成肉の一切れを口に入れた。 「そのニオイって、なんだったの?」 朝美が質問すると、 「ですから、ゴミですよ」 「ゴミ? 生ゴミで…
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(24)この家、呪われているんだわ
はぁ……と、睦代が鈍いため息をつく。いやなことを思い出したと言わんばかりだ。眉間には深い皺がふたつ。唇は微かに震え、目元にはマスカラが滲んでいる。 一方、朝美はなにやらワクワクが止まらなかっ…
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(23)管理費払ってくれと伝えてよ
「そしたら……」 睦代が、まるで怪談を語るように言った。 「もしかして、景子さんには会えなかったの?アポはとってなかったの?」 朝美が訊くと、 「アポは一応、とっておいたん…
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(22)景子さんの様子がおかしいって?
二〇二五年十一月。 「覚えていますか? ライターの景子さん。なんだか様子がおかしいんですよ」 馴染みの編集者、田端睦代にそんなことを言われて、近田朝美はフォークを止めた。 今日…
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(21)破輪洲山の開発に地域住人が反対
【天界のニュータウンの光と影】 新宿から特急で約一時間半。Y県の破輪洲山に、天界のニュータウン「ハワースの丘」が誕生したのは先月のことだ。大手デベロッパーG不動産が開発した100万平方メートル…
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(20)この家、殺人鬼が住んでたの?
『景子さん、めちゃ喜んでいましたよ。いい家を教えてくれてありがとうって。ここなら、夫の健康も回復するだろうって。来週移住する予定ですって』 睦代のメールに、朝美は指の先まで寒気を覚えていた。 …
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(19)趣旨は「他人の不幸は蜜の味」
「え。これって」 お気に入りのバルでランチをとりながらネットニュースを見ていた朝美は、その記事を目にして、小さく声を上げた。 スマートフォンに表示されているのは女性誌のウェブ版で、「家…
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(18)全部僕が悪いんだ
「え? 今、なんて?」 夫の言葉が信じられなくて、景子は聞き返した。 「だから、仕事を辞めてきた」 夫が、「今日はいい夜だね」と言うように、ワインを傾けながら穏やかな表情でそんな…
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(17)あの人ったら鍵を忘れたの?
田端さんから久しぶりに電話が来た。熟成肉の専門店でランチをしたのを最後に連絡が途絶えていたが。 「最近、仕事は忙しいの?」 訊かれて、 「まあ、ぼちぼちかな」と、景子は無難な答え…
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(16)坂の前で2人の立場が逆転
まさか、こんな暮らしが手に入るなんて。 景子は、目の前に広がる光景を眺めながら、うっとりとつぶやいた。 このマンションは高台にある。しかも目の前は公園だ。そう、いわゆる、高台の低層マ…
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(15)あなたのことが気に入りました
「婚活サイト側からすると、結婚が早くても遅くても、儲かる仕組みなんですよ」 目の前のイケオジが、焼き菓子を上品につまみながら言った。イケオジの名前は東三条護。……東三条。いかにも雅な名前だ。も…
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(14)イケオジとアフタヌーンティー
なんで、こんなことになったんだろう? 景子は、自問自答していた。 皇居を見下ろすラグジュアリーホテルの高層階。目の前に広がるのは、アフタヌーンティーの品々。 「今日は、曇りで残…