五木寛之 流されゆく日々
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連載9840回 正月休みに読んだ本 <7>
(昨日のつづき) 疲れたときには、海外のミステリーを読む。チャンドラーや、ハメットや、ガードナーを読んだのは半世紀も昔の若い頃である。『ロング・グッドバイ』などは、まだ書店で見かけるが、ハメットに…
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連載9839回 正月休みに読んだ本 <6>
(前回のつづき) 私の父親は学校の教師だった。小倉の師範学校を出て、福岡でしばらく小学校に勤めたあと、当時の朝鮮に渡った。普通学校と呼ばれていた朝鮮人の小学校で校長をやっていた時代もあった。その後…
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連載9838回 正月休みに読んだ本 <5>
(昨日のつづき) 『3・11以後とキリスト教』(荒井献・本田哲郎・高橋哲哉著/ぷねうま舎刊) カトリック神父の本田哲郎さんの著作は、これまでも注意して読んできた。この本は3人の討議の部分が鼎談で…
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連載9837回 正月休みに読んだ本 <4>
(昨日のつづき) 正月の休みは、借金を返すに最適の時期である。と、いっても金の貸し借りのことではない。贈っていただいて、すぐに読むことのできなかった本が、うず高く積みあがっている。それが心に重くの…
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連載9836回 正月休みに読んだ本 <3>
(昨日のつづき) 前置きの雑談で道草を食いすぎてしまった。さて、この正月休みにパラパラと走り読みした本を、順不同にあげてみよう。丹念にメモをとって読んだ本もあり、駆け足で速読した本もある。はじめて…
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連載9835回 正月休みに読んだ本 <2>
(昨日のつづき) 本を読むにも、原稿を書くにも、人さまざまなスタイルがある。 机に向かって活字を読んだり、文字を書いたりするのが、まあ普通のやり方だろう。そんな意味では、私は以前から変則的だっ…
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連載9834回 正月休みに読んだ本 <1>
暮れと正月の何日間が一年に1回の休みである。それ以外は連休も盆も関係がない。普通の人が休んでいる間も、シコシコ原稿用紙の枡目を埋めて暮している。物書きというのは、人が思うほど楽な稼業ではないのだ。 …
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連載9833回 さらば幻想の時代よ <5>
(前回のつづき) これが今年最後の原稿である。 毎年毎年、その一年をふり返っての文章を、40年、書き続けてきた。それもたぶん今年で終ることになるだろう。来年の秋には、「流されゆく日々」の連載が…
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連載9832回 さらば幻想の時代よ <4>
(昨日のつづき) テレビ朝日報道ステーションの古舘キャスターが、来春で降板するという。TBSニュース23の岸井キャスターも、交替が噂されている。NHKのニュース番組のメイン・キャスターが変って以来…
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連載9831回 さらば幻想の次代よ <3>
(前回のつづき) 宗教の対立は、本来あってはならないものである。かつてインドにおいても、さまざまな宗教が共存していた時代があった。一神教の宗教だからといって、他の宗教に敵対することは、必然ではない…
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連載9830回 さらば幻想の時代よ <2>
(昨日のつづき) 戦後70年のこの国の実体は、知ってて知らないふりをする、という事につきる。物事をまっすぐに直視しないようにつとめるのである。つとめるというより、それが本能的に身を守る習慣になって…
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連載9829回 さらば幻想の時代よ <1>
街には師走の風が吹く。 年を重ねるにつれ、一年が早く過ぎるように感じる、とはよく言われる話だ。 しかし、私にとって今年一年は、決して急速に過ぎた一年ではなかった。 今年は、かなり中身のつ…
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連載9828回 野坂昭如ノーリターン <6>
(昨日のつづき) 小説の世界には、いろんな新人賞があるが、「小説現代新人賞」というのも、その一つだ。 私はこの新人賞に応募し、幸運にも入選して職業作家としてのスタートを切った。その意味では足を…
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連載9827回 野坂昭如ノーリターン <5>
(昨日のつづき) 戦後70年というけど、敗戦後の二、三十年は、戦前レジームの延長だったと思う。 文芸ジャーナリズムにしてもそうだった。文学界も、エンターテインメントの分野も、戦前、戦中の大家が…
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連載9826回 野坂昭如ノーリターン <4>
(昨日のつづき) 『対論』は、文庫でも出ているが、ほとんど手に入らない古い本だ。今後もたぶん若い読者が目にする機会はないと思うので、もう少し野坂昭如の発言を引用しておこう。 野坂 ぼくは金がな…
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連載9825回 野坂昭如ノーリターン <3>
(昨日のつづき) 1971年の夏、一冊の対談集を出した。私と野坂昭如の連続対談のシリーズである。雑誌「話の特集」に連載したものを『対論』と名づけて講談社から出版されたのである。当時の定価390円と…
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連載9824回 野坂昭如ノーリターン <2>
(前回のつづき) この『流されゆく日々』の70年代のアンソロジーが双葉文庫からでている。最初のシリーズは、75年から79年までを抄出して全6巻にまとめられているのだが、巻末に主な登場人物の名前のリ…
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連載9823回 野坂昭如ノーリターン <1>
本当は今日は『後部座席からの眺め』の最終回を書く予定だった。しかし、電話で野坂昭如さんの訃報を知らされたので、とりあえずその事を書く。 野坂さんと私は、ほぼ同じ時期に直木賞をもらった昭和ヒトケタ…
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連載9822回 後部座席からの眺め <4>
(昨日のつづき) 車内から外を眺めていると、世界の見え方が変る。 たとえば、バイクや自転車との関係だ。車内から観察すると、どれほど二輪車が危険にさらされているかが、手にとるようにわかるのだ。 …
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連載9821回 後部座席からの眺め <3>
(昨日のつづき) そもそも左折右折の信号というものは、曲るずっと手前から出すべきである。前の車の進行が予測できないのでは、市内の混雑の中で運転のしようがない。曲りはじめて、ついでに信号を出すのはい…