五木寛之 流されゆく日々
-

連載9895回 サクラ咲く季節の中で <5>
(昨日のつづき) きょうタクシーに乗ったら、えらく話好きのドライバーだった。 「さっきオークラから赤坂のほうに抜ける道を通ってきたんですけどね、桜がきれいでしたよ。2、3日後には満開になるんでし…
-

連載9894回 サクラ咲く季節の中で <4>
(昨日のつづき) 昔話になる。 1950年代の話だ。1952年、つまり昭和27年の春に、私は九州から上京した。はじめての東京である。西も東もわからぬままに、すぐさまアルバイト生活がはじまった。…
-

連載9393回 サクラ咲く季節の中で <3>
(昨日のつづき) 桜を見ると浮き浮きする、という人がいる。反対に、 「なんとなくウツになるんだよなあ」 と、いう人もいる。それぞれに実感がこもっているからおもしろい。 夜、桜の名所のあた…
-

連載9892回 サクラ咲く季節の中で <2>
(昨日のつづき) 昔、大学入試の発表を、その地の友人や知人に頼んで、当日、見にいってもらうことがあった。 地方から東京や、その他の都市の大学を受験したときなどが、そうである。 もし幸いに合…
-

連載9891回 サクラ咲く季節の中で <1>
暖かい日が何日か続いたかと思うと、また冬にあともどりしたかのように寒さがぶり返す。 厚手のジャケットを片付けようとするが、こう気温が上下するのでは対処しようがない。 テレビは連日、桜のニュー…
-

連載9890回 伝説と物語の値うち <4>
(昨日のつづき) 目に見えないものの力。 物語と伝説の力とは、まさしくそういうものではないのか。 私たちは、数字とか、統計とかを頼りに物を考える傾向がある。しかし、それは決して現実的ではな…
-

連載9889回 伝説と物語の値うち <3>
(昨日のつづき) 私たちがモノの対価として支払う金銭は、必ずしも品質に対してだけではない。 むかし雑誌でフランソワーズ・サガンと対談をしたことがあった。対談とは名ばかりで、有能なフランス語の通…
-

連載9888回 伝説と物語の値うち <2>
(昨日のつづき) 先日、金沢へいってきた。東京─金沢、2時間半という新幹線は、なるほど便利だ。 これでは日帰りも不可能ではないだろう。ただし、金沢で一泊というのを楽しみにしている風流人には、残…
-

連載9887回 伝説と物語の値うち <1>
若い世代が、あまり車を欲しがらないという。ひと昔まえは、湘南海岸をオープンカーで走りながらボサノヴァの音楽をかけるとか、そういうのが恰好よかった時代もあった。 車が必要ならシェアリングすれば…
-

連載9886回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <5>
(昨日のつづき) きょうは取材インターヴューが重なって、思いきり時間オーバーしてしまった。最初に予定していた時間が2倍、3倍に超過してしまうのは、毎度のことである。 最初は、雑誌のための親鸞に…
-

連載9885回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <4>
(昨日のつづき) 親鸞について、かねてから考えてみたかった点がいくつかある。 一つは、「朝家のおんため」に念仏するのもよかろう、という発言である。この言葉をめぐっては、さまざまな意見が交錯して…
-

連載9884回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <3>
(昨日のつづき) 今回の新書は、あくまでもタイトル通りの「はじめての親鸞」である。そもそも、親鸞を論ずるということ自体が、無理な仕事のような気がするのだ。 歴史というものが、作られるものである…
-

連載9883回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <2>
(昨日のつづき) こんど出た『はじめての親鸞』は、新書で180ページあまりのコンパクトな本です。 「やさしく、深く、面白い」 というオビの文句に、著者としてはいささか照れるところなきにしもあ…
-

連載9882回 自分自身のための広告─『はじめての親鸞』─ <1>
今週、新潮新書で、『はじめての親鸞』という本が出る。 これは昨年、新潮社で行った「新潮講座・親鸞をめぐる雑話・全三回」の話をまとめたものだ。新潮講座は佐藤優さんの『資本論講義』など、かなりレベル…
-

連載9881回 金は天下の回りものか <5>
(昨日のつづき) 最近の雑誌を見ていると、経済の予想に関する記事がべらぼうに多い。マイナス金利で庶民の生活はこうなる、老後破産にどうそなえるか、などなど。 しかし、不思議なことに、世の中の先行…
-

連載9880回 金は天下の回りものか <4>
(昨日のつづき) 「金に怨みは数々ござる」 とは、古い芝居の中でよく聞いたセリフだった。金のために身を売る娘たちが、つい先ごろまでこの国にいたのである。いまでも金にからむ犯罪は多い。しかし疑獄事…
-

連載9879回 金は天下の回りものか <3>
(昨日のつづき) 「バブルの時代を体験したイツキさんたちの世代がうらやましいです」 などという言葉を聞くことがしばしばある。 「さぞかし華やかだったんでしょうね」 と、うっとり夢見るような…
-

連載9878回 金は天下の回りものか <2>
(昨日のつづき) 景気がよくなれば大企業がもうかる。大企業がもうかれば株主や役員はもうかる。しかし株を沢山持っているのは、国民の数パーセントぐらいの富裕層だ。その富裕層がうるおえば、おのずとしたた…
-

連載9877回 金は天下の回りものか <1>
昔、よく耳にしたことわざに、 〈金は天下の回りもの〉 というのがあった。かつて日銭かせぎの労働者などが、その日の賃金をぜんぶ呑んでしまう。仲間が気づかって、 「おい、おめえ、そんなに金を使っ…
-

連載9876回 記憶のフィルムを廻して <5>
(昨日のつづき) 電子書籍が大話題になったのは、何年ぐらい前のことだろうか。 これで活字文化は終るとか、いずれ出版社や本屋さんがなくなるとか、大騒ぎだった。あたかも黒船襲来の時のような騒がれか…
