五木寛之 流されゆく日々
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連載10287回 「孤独のすすめ」補稿 <8>
(昨日のつづき) 老人のユーモアというのは貴重なものである。それを発するほうにも、また受けるほうにも大きな価値があるのだ。 以前、沖縄にいったことがあった。そこで村の100歳ちかい長寿者をたず…
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連載10286回 「孤独のすすめ」補稿 <7>
(昨日のつづき) 老いというのは、人間だれでも受け入れなければならない宿命である。 老いについて、最近さまざまな提言が目立ってきた。スーパー老人、などという言葉もマスコミで目にすることが多い。…
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連載10285回 「孤独のすすめ」補稿 <6>
(昨日のつづき) モノはしょせんモノに過ぎない。 とはいうものの、そのモノにまつわる記憶は捨てがたい財産である。高齢者にとって絶対の資産は、はたして金銭だろうか。それとも不動産だろうか。 …
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連載10284回 「孤独のすすめ」補稿 <5>
(昨日のつづき) <断捨離>という言葉が一時、大流行したことがあった。 要するに不要なものを捨てようというすすめである。これが大きな反響を呼んだのは、人びとがモノに埋没してウンザリしているからだ…
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連載10283回 「孤独のすすめ」補稿 <4>
(昨日のつづき) 『孤独のすすめ』の終りのほうに、この小冊子には、いささかふさわしくない提言が二つ三つ述べてある。 そもそも政治や経済について全く無知な私が、国の将来について語ったりする資格はな…
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連載10282回 「孤独のすすめ」補稿 <3>
(昨日のつづき) 新書『孤独のすすめ』の第1章に、「諦める」という文章がある。 ふつう「諦める」といえば、物事を放棄する、手放す、もう駄目だと考える、といった状況を言うようだ。しかし、辞書にも…
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連載10281回 「孤独のすすめ」補稿 <2>
(昨日のつづき) 私の持論の一つが、「治」という字の読み方である。 「治」とは「治療」とか、「完治」とかというふうに、病気が「治る」の意味で使われることが多い。また「治す」とか「治癒」という用い…
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連載10280回 「孤独のすすめ」補稿 <1>
世の中はわからないものである。政治の世界が「一寸先は闇」だとは知っていた。 しかし、実際にはすべての事が、予測どおりには動かない。こと出版の世界もそうだ。 考えてみれば、すでに60年以上もメ…
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連載10279回 健康病という病い <5>
(昨日のつづき) 目を覚ますと、すぐに時計を見る人がいる。昨夜、何時間眠れたかが気になるのだ。 睡眠時間は5時間でよい、という情報もある。要するに良質の睡眠がとれたかどうかが問題だという。それ…
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連載10278回 健康病という病 <4>
(昨日のつづき) ヘルス情報からヘルシー情報へ。 この怒濤のような健康情報の物量は、最近ほとんど全ニュースの中心となった感がある。 しかも、その内容の多様性は呆れるくらいのものだ。正反対の…
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連載10277回 健康病という病 <3>
(昨日のつづき) 『日刊ゲンダイ』というのは、創刊時からずっと一貫して傾向的な夕刊だった。 たとえば政治だけでなく、すべてにわたって反体制、反権力という片寄りがある。むかし巨人が圧倒的に強かった…
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連載10276回 健康病という病 <2>
(昨日のつづき) 私のひそかな趣味のひとつは、入浴である。入浴というとバスタブにつかり、体を洗ったり髪を洗ったりすることを想像されるだろうが、私の場合はそうではない。 ややぬる目の湯に、体を浸…
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連載10275回 健康病という病 <1>
私は自分の健康に関しては、かなり無頓着なほうだ。無頓着というより非常識といったほうがいいかもしれない。 私はこれまで健康診断とか検査とかいうものを、戦後70年いちども受けたことがなかった。また、…
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連載10274回 健康というストレス <5>
(昨日のつづき) がん発生の主なる原因は、ストレスであるという。がんについて本当のところは、まだ100パーセント明確にわかっていないのだ。さまざまな科学的、医学的推論はなされていても、完全に解明さ…
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連載10273回 健康というストレス <4>
(昨日のつづき) 人間とは、食べる動物である。私たちは食べなければ生きていけない。もちろん人工栄養で生命を維持する例もあるが、それでは本当の意味で生きていることにはならないだろう。 何を、どう…
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連載10272回 健康というストレス <3>
(昨日のつづき) 小学館から出ている健康関連本のなかに<片寄斗史子聞き書きシリーズ>という一連の出版物がある。 片寄さんは私が信頼するベテラン編集者で、このシリーズも良心的な健康本として愛読し…
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連載10271回 健康というストレス <2>
(昨日のつづき) 60歳を過ぎた頃から、小便の勢いがなくなってきた。トイレの朝顔を前にシャーッと盛大に放尿する快感が失われてきたのだ。 今ではマナー違反だろうが、私の若い頃には、立ちションは青…
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連載10270回 健康というストレス <1>
<健康という病い>。それを私は<健康病>とよぶ。もちろんそういう病名はない。 しかし、このところこの国に蔓延しているのは、前代未聞のこの病気ではないかと思う。私の場合、目を覚ますとまず頭をよぎるの…
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連載10269回 根なし草排除の感情 <4>
(昨日のつづき) 少数者である弱者を、弱者の少し上のグループが迫害し、差別する。これは古くからくり返されてきた構図です。 余裕のある階層は、それを黙って見ているだけです。ときには背後からその相…
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連載10268回 根なし草排除の感情 <3>
(昨日のつづき) 多数者の集団が少数者の集団を憎悪し、圧迫する。この感情は人間の根元的な根づよい感情です。いくら口で智恵と慈悲の教えとか、自利利他とかとなえていても、内部にうずまくどろどろした感情…