ラストエンペラー
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                         (40)戸倉から「歳」という言葉が「いや、いや、相談を持ちかける側が、参上するのが道義というものです。それに一度、戸倉さんの会社をお訪ねしたかったこともありますし……」 戸倉の言葉を遮っていいながら、「この人も、すっかりビジネ… 
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                         (39)車を降り、一人で歩き始める◇第二章◇ 〈1〉 戸倉金属加工は川崎の工業地帯の中にある。 多摩川を越えて暫くすると、ナビが「三百メートル先を左折です」と告げる。 首都高速横羽線の下を走る産業道路の左… 
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                         (38)佐村が結んでくれた縁のよう「戸倉さんって、F1チームにいらした?」 「松浦さんと一緒にトミタを辞められてしまいましたが、あれだけの技術を持ったエンジニアは滅多にいませんし、最高の車を造るからには、最高の陣容をもって挑まな… 
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                         (37)社長は私の何をご存知なのか「一人前かどうかは自分では何ともいえませんが──」 「でも、篠宮さんの名前を挙げたのは、松浦さんですよ。彼の仕事への取り組み方、能力は良く知っています。確信なくして、人を推挙する方ではありません… 
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                         (36)凛の発想は極めてユニーク「その共通部分を見いだすためには、あうんの呼吸は通用しない。議論を重ねる必要があるといいたいのですね」 「そして、全ての集合体に共通する部分は、結果的に分かりやすいものになる。日本人の侘び寂びを… 
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                         (35)蒔絵の見事さに驚いてはいたが「そういえば、私も蒔絵を施した漆塗りの文箱を、渡米した際にプレゼントしたことがあるのですが、その時の反応が、想像していたのとはちょっと違ったのを思い出しました」 凛は、微かに首を傾げて先を促す… 
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                         (34)虫の音は外国人にはノイズ「これもまた、完全オリジナルを好む。つまり立派な見栄の道具になるからですね」 「そして生地の質やデザイナーの能力が認められれば、注文が殺到する。それも、おカネに糸目をつけず、オリジナリティを求め… 
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                         (33)富裕層のヨットは見栄の道具「家だって、そんなにおカネをかけないだろうに、ヨットには出費を惜しまないというわけですか……」 「要は見栄の道具なんです」 凛はずばりという。「バカンスで使うにしたって、一年のうちほんの… 
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                         (32)モナコのレースだけは欠かさず観戦「日本の伝統技術を?」 そんなことは考えてみたこともなかっただけに、村雨は思わず問い返した。 「例えば高級車の内装にはウッドパネルが使われていますが、日本の木材加工技術、装飾技法は独特か… 
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                         (31)漆器も生産量が低下して高額にこればかりは、現地で暮らしてみないことには、何ともこたえようがない。 思わず腕組みをし、天井を仰いだ村雨に、凛は続ける。 「そして、困ったことに、ガルバルディの車造りに対する考えも理解… 
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                         (30)問題視しているのはガルバルディの理念「ガルバルディは、極力イタリアの国内製品で車を造ることを堅持してきました。特に、内装は、イタリアのブランドメーカーと協力し、あるいは廃れ行く伝統工芸技術を活用しと、微力ながら国内産業の活性化に寄与しよ… 
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                         (29)凛の胸中に秘めていた何かに触れた「だから新型エンペラーはどのような車にするのか、詳細なスペックを提示しなければならないのです」 声に自然と力が籠もる。熱意の丈を村雨は訴えたつもりだったが、凛はいたって冷静だ。 「でも、… 
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                         (28)このプロジェクトは社長直属組織に「人間には、得手不得手があります。想像力に優れた人もいれば、実務に優れた人もいます。車造りもそうですよね。市場のニーズはどこにあるのかを調査し、新たに開発する車の方針を決め、デザインを決め、エンジンを… 
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                         (27)スクリーンの向こうから凛の涼やかな声凛からの返信が入ったのは、その日の午後のことである。 意向は理解した。詳しく聞きたいこともあるので、一度スカイプで話したいとあり、翌日の日本時間午前七時ではどうかとあった。 日本時間… 
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                         (26)彼女は篠宮凛。ヨシの2歳年上だ「もしも、もしもですよ、その方にプロジェクトの指揮をお願いしたら、引き受けていただけるでしょうか」 「それは、彼女が判断することですから、何ともおこたえしようがありませんね」 至極当然の… 
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                         (25)イタリアに交際相手がいたとは「松浦さん、その方と親しいんですか。どこでお会いになったんですか?」 矢継ぎ早に訊ねる村雨に、松浦は少し戸惑った表情を浮かべると、 「最初に会ったのはモンツァでしたね……」 なぜ… 
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                         (24)彼女ならやれるかもしれないその間に、村雨の脳裏に浮かんだのは、松浦に代わるプロジェクトリーダーのことだ。社内には、新型車の開発をリーダーとして手がけた人間がいないではないが、トミタのガソリン車のモニュメントとなる車を造ろうと… 
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                         (23)佐村の名前が出た途端、表情が一変「なるほど……そんな理由もあったんですね……」 納得した様子で頷いた松浦は、「では、プロジェクトチームのリーダーに私をとお考えになったからには、メンバーについてもお考えがあるわけですね?」 … 
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                         (22)エンジニアがトミタから離れていってる!?「私が松浦さんにお願いしたいのは、プロジェクト全体のマネージメントです。どんな車にするかは、メンバーがアイデアを出し合って、練り上げていけば──」 再度理由を口にした村雨を、 「社長……… 
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                         (21)もう車造りに割く時間がない「とおっしゃいますと?」 「家内ですよ……」 松浦は短く漏らすと、続けていった。 「F1の世界で十一年。その間、一年のうち八ヶ月は世界中を転々とする生活を送ったんです。残る四ヶ月も… 

 
                             
                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                     
                     
                     
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
         
         
         
         
         
         
        