北海道100%の“奇跡の酒”が 上川大雪酒造の挑戦 <前編>

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 少子高齢化で日本の人口は右肩下がりで減る時代を迎え、地方の小さな町は消滅集落の危機にさらされている。そんな中、町おこしのために北海道の真ん中にそびえる大雪山の麓の町、上川町で日本酒の酒蔵を立ち上げ、小仕込み・高品質にこだわった北海道産酒を誕生させて大反響を呼んでいるのが上川大雪酒造だ。この上川町の日本酒プロジェクトに、わが国の大きな課題である地方創生ビジネスのヒントが詰まっているのではないか。プロジェクトの立役者である上川大雪酒造の塚原敏夫社長に話を聞いた。

 北海道上川町は、北海道の屋根ともいわれる大雪山国立公園の麓にある町。町の名前の由来は、石狩川の最上流に位置していることや、アイヌの言葉で「川の上流にある村」と呼ばれていたことから付けられたともいわれている。年間平均気温は約5.5度。人口3700人前後の小さな町だ。女子スキージャンプの高梨沙羅選手の出身地としても知られ、有名な層雲峡温泉は年間200万人もの観光客で賑わう。そんな町に念願の酒蔵が誕生した。

「今年の夏に希少な試験醸造酒を返礼品にし、インターネットで出資を募るクラウドファンディング支援サイト『Makuake(マクアケ)』を通じて実施したところ、沖縄や九州の方を含めて4週間の短い期間に約1500人の支援者の方から1300万円以上の資金が集まりました。これは、日本酒関連ではまさに最速のペース。僕自身も反響の大きさに驚きました」と、塚原社長は笑顔で話す。

「上川町に来ないと手に入らないお酒でいい」

 その支援者の56%は北海道民だった。北海道は日本の国土の5分の1を占め、万年雪から溶け出したおいしい水にも恵まれている今やお米の収穫量も日本トップクラスだ。品質も「ゆめぴりか」をはじめ、日本を代表するブランドになっている。それなのに、全国に1500近くある酒蔵が、北海道全土にたった11軒しかない。世界に自慢できる北海道産酒を待ち望む地元の人たちの期待の大きさが、この支援者の数字に表れているのだ。

「僕たちが小さい頃は、北海道は決して米どころでは無かった。しかし、今は環境が大きく変わっています。北海道のお米は質・量ともに日本一といわれるまでになっている。それなのに日本酒の酒蔵は減る一方。それはおかしいんじゃないの、という思いが僕の中にもありました」

 この秋に収穫された北海道産の酒米で、本格的な小仕込み・高品質な酒造りが始まり、ついに上川大雪酒造の新酒が誕生した。が、評判が評判を呼び、あっというまに完売。ほとんどは地元の上川町、あるいは北海道限定で販売され、消費されてしまうが、一部はネットで北海道以外でも予約購入できることで、人気に火がついたのだ。

「もっとたくさん造って欲しいという声があるのは事実です。今の倍造れば、利益も増えるでしょう。でも、僕は、量産はしないと宣言しています。上川町に来ないと手に入らないお酒でいいと思っているからです。地元優先で供給しているので、今の倍造っても地元ではこれ以上販売できません。全てのお酒を鑑評会に出品するお酒と同じ時間と手間をかけて少量で仕込んでいるので、これ以上造れないんです。上川町で日本酒プロジェクトを始めた一番の目的は〝町おこし〟です。この人気を、上川町に人を呼ぶことにいかにつなげていくか。それが重要なのです」

常識破りの発想と行動力が奇跡を呼んだ!

 そもそも、どうして塚原社長は酒蔵のなかった上川町で、日本酒造りに取り組もうと考えたのだろうか。塚原社長は北海道札幌市で生まれ育ち、小樽商科大学卒業後に野村証券に就職。証券マンとして全国津々浦々を駆け巡っている。その後、外資系金融機関などを経て、6年前からフランス料理の三國清三さんが上川町の『大雪森のガーデン』の中でレストランを運営する「三國プランニング」の副社長を務めている。人口3700人の北海道の上川町に、どうやって人を呼ぶか。その地方創生を町と二人三脚で6年前から取り組んできた。だが、その道程は、決して順風満帆だったわけではない。塚原社長は、上川町のチャレンジをさらに加速する戦略を探っていた。そんな時に、転勤族だった証券マン時代に知り合った友人に再会したことから上川町日本酒プロジェクトにつながる物語が生まれたのである。

「証券マンは全国を転勤で渡り歩く職業。僕も20代の頃は、三重県の四日市で仕事をしていました。その時に、仕事帰りに毎晩立ち寄るなじみのカウンターバーができて、その店のマスターと仲良しになりました。実は、そのマスターの実家が『ナカムラ』という酒蔵だったのです」

 約2年ほど前、そのマスターと名古屋の高島屋が開催した北海道物産展で再会した。

「高島屋の北海道物産展に三國と僕が運営するレストランも呼ばれたのです。ふと思い出して電話をかけたら、マスターはすぐに名古屋に出て来てくれました。『あれ、証券マンじゃなかったの』と言うので、『いや、いろいろあってね』と返したら、マスターは『実は、僕も代々続けて来た酒蔵をたたむことにしたんだよ』と、話し始めました」

 そして、マスターは、会場にディスプレーされている大雪山が間近に迫る上川町の雄大な風景写真をじっと見つめながら、「こんなところで日本酒を造ったら、すごいのができるのになぁ」とつぶやいた。塚原社長はこの時に、「日本酒には人を呼ぶ力がある。上川町にマスターの実家の酒蔵を移転できないか」と思い立ったのである。

 しかし、ただでさえ日本酒の製造許可のハードルは高い。しかも、酒蔵を三重県から北海道に移転させるのは前代未聞のことだ。

「絶対に無理だと誰からも言われました。三重県や北海道の税務署との対話からも簡単じゃない事がわかりました。でも、めげずに一つひとつ難題をクリアし、酒造免許の取得に向かって突き進んでいったのです」

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