たばこ税増税は、非喫煙者にとっても他人事ではない

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加熱式たばこは増税すれば、日本人はこれからもどんどん貧しくなる

 紙巻きたばこの代替商品として生まれた加熱式たばこは2022年、紙巻きたばこと同額の税が課されるようになったが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う防衛費の捻出のため来年にも1本あたり3円の増税が予定されている。

 これに対して、この5月からchange.orgという署名サイトで「加熱式たばこの増税に反対する署名」への参加を呼びかけているのが経済学者で自由主義研究所所長の蔵研也氏だ。

 これまでに3万人以上の署名を集めた蔵所長は7月中にはこの署名をもって自民党の税制調査会の委員に請願を行う予定だというが、喫煙者のみならず非喫煙者にも署名への参加を求めているのは、「望ましくない商品や活動への安易な課税は、最終的にわれわれ一人ひとりの自由を制約するだけでなく、ますます日本の経済を沈滞させることへとつながるでしょう。こうした加熱式たばこへの増税は非喫煙者にとっても他人事ではありません」と蔵所長は考えているからだ。

防衛増税はそもそも必要ない

 昨年のウクライナ紛争を受けて、台湾海峡での軍事衝突を念頭において岸田内閣は今後の防衛費の増額を目指した。はたして先月2023年6月16日には、防衛費増額の財源として防衛財源確保法が可決・成立することになった。

 そして、自民党の税制調査会では法人税などの増額に加えて、たばこ税を1兆円ほど上げるべきだと考えていると伝えられている。こうした増税が実現するかどうかは確実ではないが、少子高齢化をはじめとして問題が山積する日本の財政状況では、今後もあらゆる方面で増税が検討されることはまず間違いないだろう。

 しかし、「ちょっと待っていただきたい」と蔵所長は異議を唱える。

 「そもそも今年度の税収は過去最大の70兆円に届くほどであり、これは2022年度当初予算での65兆円よりも4兆円以上も多いんですよ。さらに、国債発行を含めた国家予算は110兆円を超えています。国防の危機という一大事に際して、どうして1兆円程度の捻出もできないのでしょうか?」

加熱式たばこにはいくつかのメリットがあると考える

 確かに喫煙は人体に有害であり、各種の疾病リスクを高めることは否定できない。しかし、紙巻きたばこに比べると加熱式のたばこにはいくつかのメリットがあることも事実だろうと蔵所長は続ける。

 一つは、たばこ葉を直接に燃やす紙巻きたばこに比べて加熱式では煙の量が圧倒的に少ないため、ベンツピレンなどニコチン以外の物質に伴う被害が少ないと考えられる健康リスクが低い可能性が高いということだ。このことに関しては実際にイギリスなどからの調査結果も報告されている。

 もう一つは火事につながる可能性が大きく下がることだ。厚労省の報告では、たばこにからの失火による経済的な損失は975億円にもなると推定されているが、この金額は加熱式たばこが普及すれば大きく下がるはずである。直接火をつけて燃やすわけではないことを考えれば明らかだ。

 「自由な活動を前提とする成熟した社会では、アルコールが体に悪いからといって全面的に酒を禁止するのではなく、その飲み方についての注意を喚起してゆくというハームリダクションのやり方が望ましいのです。たばこについてもハームリダクションを考えるべきであり、社会的に望ましくないという理由から安易に課税するというのは短絡的にすぎると思いますね」(蔵所長)

実はたばこは医療費や介護費を減らしている!

 さらに、蔵所長は医療費の観点からも貴重な提言をしている。
 
 日本医師会は「たばこの健康被害は2兆円近くにも及んでおり、その額はそのまま医療費の増額である」と主張しているが、蔵所長は、これは論理的に、完全に誤っている。なぜなら、たばこが原因の疾病で死ななかったとしても、人は誰でも必ず何らかの別の原因による疾病によって死ぬことにならざるを得ないからだといい、2012年の日本公衆衛生学会での健康報告を見て、こう述べている。

 「何と喫煙者の生涯医療費用は非喫煙者よりも高いのではなく、低いのですよ。これは喫煙者がガンや心筋梗塞などの理由から4年ほど寿命が短いという単純な事実にあります。ちなみに、報告をした5人の著者らは大学医学部の公衆衛生の専門家であり、報告の信憑性はひじょうに高いのです。

 現在、日本人の男性の平均寿命は82歳近くですが、その健康寿命は72歳ほどです。4年間の短命というのは医療費だけでなく、介護費用も大きく下げているでしょう。75歳以上の高齢者の医療・介護費の9割は現役労働者が負担しているのが現状なのです。逆説的ですが、少なくとも現役の労働者世代にとって、喫煙者にかかる社会保障料の税負担は非喫煙者よりも少ないのです。

 そしてまた喫煙者の割合は男女ともに、所得が下がるほどに上昇します。例えば、厚労省の2018年の調査によれば、年収が200万円以下の男性の喫煙率は34%であるのに対して600万円以上では27%。低所得層により高い税負担を求めるのは所得税などでの累進税税制とは完全に矛盾しています」

増税は無限に連鎖する

 蔵所長は自由主義経済学者を自称しているが、それは「人間の活動の自由」を第一義的に重視しているからからだ。そうした活動にはリスクを伴う活動も当然ながら含まれるが、「アルコールが体に悪いから課税してペナルティを課すというのは自由な社会に求められる態度ではありません。そうした考えは危険でさえあります」と蔵所長はいう。

 蔵所長によると、実際にイギリスなど多くの国では、砂糖飲料は糖尿病のリスクを高めるという考え方に基づいて砂糖飲料税がかけられているという。例えば1リットルのコカ・コーラに60円もの税をかけているのだ。将来の日本で塩分が高血圧の原因となるという理由から醤油税や漬け物税がとられるようになるのも決してあり得ないことではないだろう。

 「少子高齢化と実質賃金の低下が急速に進む日本に必要なのは徹底的な規制の廃止と行財政改革であり、安易な増税ではありません。加熱式たばこへの課税そのものも問題ですが、それによってもたらされるのは安易な行政の肥大化です。日本の活力を奪う増税と国家行政の肥大化には断固として反対しなければなりません」蔵所長は、きっぱりこういった。

 増税が無限に連鎖していけば、確実に日本の活力を奪うだろう。国家行政の肥大化に対し、今「声」を上げるべきではないか。

加熱式たばこの増税に反対する署名請願はこちらから
【提供】自由主義研究所

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