安青錦3度目Vはアッパレだが、私の大の里への評価は甘かった。両横綱よ「13勝の壁」を破ってみせよ
外は灼熱。一歩館内(IGアリーナ)に入ると別世界のように涼しい──。名古屋場所前半戦を現地で取材した。一昨年までの愛知県体育館では、観客がうちわで扇ぎながら観戦するのが恒例だったが、アリーナではその光景はもうみられない。
さてそのアリーナで最後に主役となったのは関脇安青錦だった。12勝3敗で並んだ大関霧島、関脇熱海富士との優勝決定巴戦を制して3度目の優勝を遂げた。先場所休場の原因となった左足首のけがはまだ癒えていない。師匠の安治川親方(元関脇安美錦)が、「もう本当に限界だった」「いつストップするか考えていた」と案ずる中、やってのけた。アッパレというほかあるまい。
私は、10番勝って大関復帰を決めた後、安青錦は休場するかと思った。花道を引き揚げるとき、しばしば足を引きずっていたからだ。しかし安青錦は出てきた。「10勝ではなく、優勝を目指そう」と場所前に師弟ともに公言し、有言実行となった。精神力の強さに改めて賛辞を送りたい。
ただ、気になるのが代償だ。左足首の傷が尾を引かなければいいが……。
■大の里の鍛え直し、豊昇龍のスタイルチェンジ
祝福はここまでとしよう。いま私が一番いいたいのは「両横綱よ、奮起せよ」だ。
大の里からいこう。2場所連続休場から復帰し、まずは15日間土俵を務めた。大の里自身、場所前、「とにかく15日間相撲を取る」と言っていた。本場所の土俵に出続けることで力を取り戻そうとしたのだろう。たとえ負け越しで終えることになっても、7勝8敗と1つの負け越しに収まるなら、最後まで取る覚悟があったようにみえた。
結果的には、序盤の1勝3敗から、徐々に相撲勘を取り戻し、9勝6敗にまでもっていった。明るい兆しがちょっと見えたと言っていいのではないか。
ここで少し整理してみると、序盤の3敗以降、調子を戻してゆく中でも負けたのは、安青錦(9日目)、熱海富士(11日目)、霧島(12日目)の、巴戦出場の3人。つまり、実力があって好調の力士にはまだ及ばなかった。では、何が必要か。八角理事長(元横綱北勝海)が千秋楽の打ち出し後に送ったメッセージに答えがありそうだ。
いわく、同じ一門で兄貴分の高安を相手に、「ぶつかり稽古をしろ、頭を押さえてもらえ」。横綱というプライドを捨ててもう一度体を根本から鍛え直さないと、兆しは見えたといえども、強敵を押し切るまでには至らない、ということだろう。
どうもこのところ、私の大の里評は甘かったようだ。今場所も、相撲勘さえ戻れば……と優勝の本命にあげていたが、いやいや、優勝にはもっと土台を作り直す必要がありそうだ。
次いで、豊昇龍はどうか。中盤から右膝周りにテーピングを巻き、14日目からは休場した(診断は、右内側側副靱帯と右ハムストリングスの損傷)。
豊昇龍は体が決して大きくない。持ち前の運動神経を生かし、激しい攻めや投げで大型力士に伍してきた。あの体でよく頑張っていると思う。しかしこの相撲では、今後もケガを繰り返す恐れがある。いま「相撲を変える」ことが求められているのではないか。
先例がある。千代の富士だ。強引な投げに頼ったことで幕下時代から肩の脱臼を繰り返し、入幕後も悩まされた。
そこで、師匠の当時の九重親方(元横綱北の富士)の指導のもと、投げに頼らない相撲を磨いた。立ち合いで素早く左前まわしを取って一気に寄る速攻相撲である。この取り口で番付を駆け上がった。先行事例として研究してほしい。
■「13勝の高い壁」
もう一つ、私がいま気になっているのが優勝ラインだ。昨年の九州場所から、5場所連続で12勝3敗での優勝が続いているのだ。13勝以上の優勝となると、その前の秋場所の大の里(13勝2敗)が最後だ。
長年相撲を取材して思うのは、12勝と13勝の間の壁は非常に高いということ。この壁を越えたところの優勝にこそ価値があると思う。
ところがいま、両横綱の停滞もあって、13勝を挙げられる力士がいない。安青錦もまだ13勝以上での優勝はなく、いま一番安定感のある霧島も3場所連続で12勝。あと1番届かない。
ここはやはり、まずは両横綱に壁を破ってほしい。横綱にこそ、優勝ラインを再び13勝以上に引き上げてもらいたい。果たして、次の秋場所でハイレベルな優勝が見られるだろうか。


















