熟読乱読 世相斬り
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【加害は洗い流せない】日本軍の侵攻の歴史と彼らが残した秘湯とのギャップ
ゆったりと風呂につかって、一日の疲れをほぐす。最高である。昔ながらの銭湯に入って、富士山の絵を眺めながら手足をのばす。至福である。名湯の地で露天の温泉に身をゆだね、川のせせらぎや鳥の声に耳を傾ける。…
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【「世界」の輪郭】若い頃のひとり旅がタイムマシンで甦る
〈京都駅から東海道本線で東京へ、そこから中央本線で塩尻を経由し名古屋へ、ここから関西本線、紀勢本線、阪和線とたどって紀伊半島をめぐり、大阪の天王寺から大阪環状線、東海道本線を経て京都駅に戻ってくる、と…
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【惜しむ】中島敦を読むといつも「旅人」の視線を感じる
昭和17年の冬、中島敦が33歳の若さで逝った時には、彼の声価をゆるぎないものにした作品「李陵」はまだ世に出ていなかった。「名人伝」や「弟子」も同様で、わずかに「山月記」のみが、没年の7月に刊行された…
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【漢詩でなごむ】美酒に酔い、朗誦する。人はこの欲求に勝てない
カラオケというものは、どうも苦手である。しかし、ほろ酔いになった人が「カラオケ、行きましょう!」となる気分は、ちょっとわかる気がする。 私の解釈では、あれは古代以来連綿と続いてきた「詩心」の…
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【昔も今も】古代漢帝国にタイムスリップして一日を体験する
ずいぶん昔のことだが、イタリアの世界遺産を見学するという番組に出演し、ある有名な女優さんとヴェスヴィオ山の噴火で滅んだポンペイでご一緒したことがある。番組の進行上、私が噴火前のポンペイの人々の日常を…
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【否定から肯定へ】目を背けたくなるような貧困と向き合ってきた著者の方程式
もう十数年前になるが、石井光太氏のデビュー作「物乞う仏陀」を読んだ時の衝撃は、今でもはっきり覚えている。アジア、中東、インドを巡歴しながら、障害のある物乞いの人々に密着して彼らの生を描きだしたこのノ…
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【「片隅」を守る】白黒の原作漫画には映画にはない静かな炸裂がある
「ひまわり」に続いて今回も大学ゼミのネタです。戦争を題材にした映像作品としてゼミ生諸君が選んだ中に、日本のアニメ映画「この世界の片隅に」があったので、「ひまわり」の次にとりあげることにした。こうの史代…
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【ウクライナのひまわり畑】ソフィア・ローレンの感動名画にもいくつもの闇
新学期が始まって1カ月。このコラムでも何度か書いたが、ここ数年、大学のゼミでは映画を素材にして「物語」の構造と「感動」の関係を探る、という授業をやっている。手順としては、どんな素材を取り上げたいかを…
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【普遍的人権】国連安保理は国際人権を踏みにじる総本山なのか?
目を覆いたくなる残虐行為が戦争という形でまかり通る時、「人権」という言葉が叫ばれても果てしないむなしさだけが胸をしめつける。人権は人命がまず保全されての話だ、という気持ちになってしまうからだ。しかし…
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【家族と政治】「家族形態」から読み解くプーチン支配 それでは日本は?
月刊「文藝春秋」の5月特別号に、フランスの人口動態学者・歴史社会学者のエマニュエル・トッドへのインタビューが載っていた。タイトルは、〈日本核武装のすすめ〉というひどく刺激的なものだ。もっとも、これは…
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【改良型キャッチ=22】指導者は正気でなけければならない、とどまろうとするのは狂気なので解任する
このひと月のあいだに、世界には破滅をもはらんだ人為的ジレンマが生まれてしまった。プーチン大統領のウクライナ侵攻に西側諸国の制裁が発動されているが、制裁をしすぎると彼が核兵器を使用する怖れがある、とい…
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【「陰キャ」と「根暗」】その時代の「ことば」に寄り添う酒井順子さんの誠実
学生相手に今どきの「若者言葉」を使ってしまい、あとから「ウッ」と自分の軽薄が呪わしくなることがある。また、とっくに死語と化したかつての流行語を無意識に使ってしまい、学生が首をひねるという逆バージョン…
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【レディはブルースを歌う】ビリー・ホリデイは公民権運動つぶしの当局にはめられたのか
ついこの間封切られた「ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ」という映画、見ようとしていたのにボヤッとしているうちに公開が終わってしまった。 天才ジャズシンガーの名をほしいままにした…
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【内幕話の魅力】ハリウッドスターが書いた「ナマのゴシップ」には鳥肌
華やかな業界であれ地味なそれであれ、インサイダーが描く内幕モノにはつい食指が動いてしまう。以前に取りあげた「ゴミ清掃員の日常」とか「交通誘導員ヨレヨレ日記」などはその典型だ。また、前回の「日本の喜劇…
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【「お笑い」という修羅】小林信彦氏が大切にした〈ナマ〉感覚と芸人の体技
物心がついた4、5歳の頃、私の日曜夕方のルーティーンは、隣家にお邪魔し、そこでTV番組に夢中で見入る(私の家にはまだテレビがなかった)ことだった。隣家は私たち家族が住む借家の家主であり、私の遊び仲間…
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【脳梗塞という悪魔】小林信彦氏の闘病記はカフカ的迷宮だった
尊敬する人物の著作に親しみ、ひそかにその人を師と仰ぐ、といった意味で使われる「私淑」という言葉がある。私にも「私淑」する人物が何人かいて、中でも中学から高校・大学までの年月、生活のあり方そのものまで…
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【破片の威力】何かと話題のロシアの現代文学は「何でもあり」でキラキラと輝いている
ロシア文学と聞いて思い浮かべる作家といえば、まずはドストエフスキー、それからツルゲーネフ、トルストイ、ゴーゴリ、チェーホフといったところが一般的ラインナップだろう。しかしこの人たちは、日本でいえば江…
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【作家の「二枚舌」】ドストエフスキーがなぜ難解なのか、この書で分かる
NHKのEテレに「100分de名著」という番組がある。古今東西の古典的名著を取りあげ、その内容をもっとも理解しているとされる識者が縦横無尽に、しかもわかりやすく語るもので、勉強になる回がけっこうある…
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【善にも悪にも】鉄腕アトムになく鉄人にだけある不気味さと現代性
戦後生まれの少年(時に少女も)が熱狂したロボット漫画・アニメといえば、やはり鉄腕アトムと鉄人28号ということになるだろう。その後に登場した人間が乗り組むモビルスーツ型ロボット、たとえばゲッターロボ、…
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【未来のそのまた未来】「タイムマシン」に描かれた格差のディストピアの暗澹
かつて未来を描くSF小説において一大テーマだったロボットや人工知能(AI)は、いまやどんどん実用化されている。しかし、きっと人類の終焉まで実用化しないだろう、というSFのテーマもあって、「時間旅行」…