金鳳花のフール
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                         (132)遠くに煙がたなびき、ゲルが「児玉埋蔵金」ハンター、古屋敷で掘り当てる! 旧日本軍の幻の財宝ならぬ四十二人の女性の遺体! 綾瀬はこのニュースを麦のメールで知った。 「児玉埋蔵金」とは太平洋戦争の末期、フィリピン第十… 
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                         (131)元気でね、私の赤ちゃん麦を大切にするように──、エミューの厳命である。彼女はあなたを深く愛している。あなたのために苦行者になる覚悟ができている。恋の肝がすわった娘よ。文は続く、彼女を手放したらあなたは宇宙中の星から石礫の… 
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                         (130)水子は恋をする。私も彼が好き昭和初期に建てられた三階建てのビル。屋上には傾いた鉄塔が載っている。錆びついたみすぼらしい鉄の骨組みだ。綾瀬はその下に立ってみた。ここでエミューと出会った。彼女はあの世とこの世の境から足を踏み出した… 
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                         (129)閃光が樹林を死人の色に変える窓から延びた蔓は白い腕に変わっていた。腕は綾瀬の首から顔へ動きその指は彼の唇をなぞっていた。 「どっちが先だったのか。あなたは考えている。林檎か雷鳴か。たぶん林檎。あなたは女の籠から林檎がこぼ… 
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                         (128)ぼくの花粉嚢は精液でいっぱい忍冬の花も、踊子草も、沙羅の花も、栗の花もない。森の木下闇だけれど、四歳の綾瀬がしがみついた「中のものは全部ぼくのもの」の白いスカートだけは二十八歳の綾瀬の目の中で眩暈を誘うように揺れている。 … 
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                         (127)透けたスカートが心躍らせるエミューのきれいな唇がジュンイチの唇に何度も押しつけられる。 ママ、舌を入れていい? ジュンイチは真剣な眼差しでママを見つめる。でもその声は届いていない。 目が覚めたら君の… 
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                         (126)キンポウゲよ、あなたのこと見てママ、ぼくは十六歳だよ。こんな根元まで、こんなに根元までママのお腹に侵入できる。手で顔を覆わないで、指で目を隠さないで、恥ずかしがらないで、見て、こんなにぼくの根元と君の根元が合わさっている。泣… 
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                         (125)エミューの記憶の中の花園阿片って、名前が怖そうだ。ぼくはその怖いものからママを守ったのだろうか。いや違う。ぼくがママを守ってあげられるのはずっと遠い未来の話だ。こんなに小さい腕と手じゃ栗鼠一匹だってやっつけられやしない。 … 
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                         (124)君の代わりにぼくが泣こういいよ、タキグチさん。あんたのファッションは最高だ。綾瀬は心の中で親指を立てた。ずんぐりした土の車が滑るように走って来てタキグチの傍に寄る。車のドアが開く。タキグチは立ち止まり振り向いた。大きな頭が… 
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                         (123)コートを着た巨体が遠ざかる「一九六七年六月十八日、岡山県総社市の国道で事故がありました。居眠り運転の小型トラックがセンターラインをはみ出して対向車線を走って来た乗用車に正面衝突したのです。乗用車には若い夫婦が乗っていました。夫… 
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                         (122)かけるならこの曲しかない目を閉じればそこにMy Sugar Babe 今夜も夢の道で会えたね はるか日々を飛び越え 君は僕を酔わす My Sugar Babe 山下達郎「マイ・… 
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                         (121)赤松と蛇とを婚姻させて魔力を抜く綾瀬とタキグチは百間堀の畔を歩いている。 「赤松幸子の件はどうなりましたか。こちらの警察に屋敷内を掘り返させるのも簡単ではありませんね」 綾瀬は言った。 「赤松は全国を回って妊婦… 
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                         (120)親の本能で我が子と分かったのか「彼は両親のもとを訪ねていったのです。いきなりね。自分は何十何年前の何月何日に流産で死んだこの家の長男だと自己紹介したのです。水子の国で新たな命をもらい幸せに暮らしていることも詳しく話をしたらしい。驚… 
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                         (119)幻覚であればよかったのに虫を泣かせてしまった。綾瀬の当惑が空気に伝染した。 緑の飛蝗が飛んだ。強いジャンプ。そして美しい跳躍だった。 綾瀬は見上げた。どこにもない岩の顔を仰いだ。見たか。ぼくにも性根がある。… 
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                         (118)綾瀬の真下で飛蝗が見上げるダダ狂いの麒麟女が喘ぐ。女は綾瀬の亀頭の先端を舌でくすぐっていた。 「じゃあ、人間性の欠落した作家に喜劇を執筆する資格はないのかしら」 舌先が尿道口を割って侵入する。 冷血漢が… 
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                         (117)麦の傷口から子鬼が這い出て…タキグチは綾瀬の顔を覗き込んだ。 「いや、何でもありません。まだ頭がぼおっとしてて、それよりタキグチさんの方こそ怪我は?」 綾瀬はエミューの体を抱え直し、照れ隠しのようにタキグチの手傷… 
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                         (116)人間の形をした岩山は幻景赤ん坊のような手つきで無くした頭に触れようとしている。青白い条線がスパークする。女の身体が爆裂した。黒煙の中で綾瀬は肉の焦げる臭いを嗅いだ。赤松の腰から上が消えていた。千切れた切断面から恨みの音声が… 
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                         (115)馬乗りになりナイフを突き立てる「お前はこの世のものではない。現世と水子の国を滅ぼす癌腫だ」 綾瀬は女に接近した。大胆な動きだった。彼は鬼女の前に立った。 「お前はお前にふさわしい場所へ帰れ」 綾瀬の動きは素早… 
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                         (114)ラジコンが本物の複葉機に「お前の主催するラジコン飛行機の大会にどんな連中が来るのか知らないが、さぞや拍手喝采のことだろう。それにしても大そうなご趣向だ。妊婦を殺さなくとも堆積岩の岩男と複葉機だけでお前の願う地獄屋敷の普請には… 
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                         (113)震える毛先が捕食者を指さす反芸術、挑発美術家は駄法螺や戯けた所作や吐瀉物で固めた王冠を愛する。時限爆弾つきの家族の春とか、使い古しの、削り滓の美徳をギロチンにかける。彼等は苦痛と不条理の絡み合いの中でこそ生命が横溢することを… 

 
                             
                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                     
                     
                     
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
         
         
         
         
         
         
        