五木寛之 流されゆく日々
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連載10007回 六〇年代をふり返る <3>
(昨日のつづき) 私が職業作家として正式にデビューしたのは、1966年の春、「小説現代新人賞」を受けてからのことだった。 そのときの選考委員は、柴田錬三郎、北原武夫、有馬頼義、田村泰次郎、など…
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連載10006回 六〇年代をふり返る <2>
(昨日のつづき) 60年代のことを年表だけで見ても、実際の時代の空気は伝わってこないだろう。 65年にアメリカのベトナム北爆が開始された。ベ平連が小田実を先頭に全国的な運動を展開する。ローリン…
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連載10005回 六〇年代をふり返る <1>
先月、BSテレビの歌番組にゲスト出演した。私が小説家としてデビューする前、放送作家や作詞家として働いていた時代のことなども番組中でとりあげられることとなり、横浜の野毛山でロケの撮影が行われた。 …
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連載10004回 流れ流されて四〇年 <5>
(昨日のつづき) いろんな方々のサポートがあって、この連載が続いた、と書いたが、なによりも感謝しなければならないのは、時おりであってもこのコラムに目を通してくださる読者諸氏に対してだろう。 何…
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【特別再録】野坂昭如ノーリターン <文学、15年12月12~19日付>
戦後70年というけど、敗戦後の二、三十年は、戦前レジームの延長だったと思う。 文芸ジャーナリズムにしてもそうだった。文学界も、エンターテインメントの分野も、戦前、戦中の大家が幅をきかせていたよう…
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【特別再録】強制収容所(アウシュビッツ)の三つの顔<歴史、14年7月23日~8月2日付>
アウシュヴィッツは、人類の最大の危機の象徴である。この門をくぐらずに、現代人は思考することも、行動することもできない。 それは劣等民族として区別した人間を、すべて絶滅しようとする極限の悪の象徴だ…
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【特別再録】今なぜ電子書籍なのか <電子書籍、11年8月15~27日付>
以前、横組みの小説『風の王国』を出版してうまくいかなかった理由の一つは活字にありました。私たちはずっと縦組みの活字を使用してきた。私はデビューのころから活字に非常に関心があったものですから。活字には…
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連載10003回 流れ流されて四〇年 <4>
(昨日のつづき) 一日一回、3枚足らずの原稿を書くという生活を何十年も続けていると、それが習慣のようになってくる。酒を飲んで帰ってきても、風邪気味で熱があっても、旅先でも、とにかく夜中の12時まで…
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【特別再録】 迫りくる玄冬の時代に <時代、09年>
「青春」は、文字どおり青くさい春の季節である。「朱夏」は、まっかに燃える夏だ。そして「白秋」。定年を迎え、自分の限界も知り、秋風の吹くススキの野を歩くような時期である。 やがて最後にやってくるのが…
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【特別再録】 野垂れ死の思想 <人生の終り、08年>
野垂れ死、という言葉がある。 旅の途中とか、流浪のはてに、道端で人知れず倒れ死ぬようなことをいうのだろう。 なんとなくみじめな、淋しい死に方のように思われる。身もともわからず、だれにもみとら…
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【特別再録】 『百寺巡礼』こぼれ草 <宗教、03年>
各地の寺を回って、驚かされるのが神仏習合の跡である。 那谷寺には白山神宮が同居しているが、各地でシメ縄を張った寺を見ることが少くなかった。 神仏習合、いわゆる悪名高きシンクレティズムというや…
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連載10002回 流れ流されて四〇年 <3>
(昨日のつづき) この雑文の連載が奇蹟的にきょうまで続いた背後には、いろんな人たちの数々のサポートがあった。物事は縁なくしては運ばないものなのだ。自力でやれることなどたかが知れている、と今更のよう…
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【特別再録】 超(スーパー)かもめ「ジョナサン」考 <サリン事件、95年>
この数カ月、カルト教団にまつわる無数の物語がうまれ、その幻影が日本列島中を徘徊している。マス・メディアによって増幅されたそれらの物語は、原型をはるかに超えたスーパー・ストーリーとして自由気ままに横行…
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【特別再録】 戦後五〇年の節目に <世相、95年>
戦後五〇年、というのは、単なる一つの刻み目にすぎない。しかし、私たちが忘れ去ったものの大きさを計る物差しとしては、ちょうど手頃な時間なのではあるまいか。私たちがこの五〇年間に失ったものは何か。忘れ去…
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【特別再録】R・アベドンとの一夜 <人物、92年>
もう、かなり昔のことになるが、ニューヨークでリチャード・アベドンに夕食をごちそうになった。場所は小さなイタリアン・レストランだったが、実はなかなか有名な店らしくて、そのテーブルをおさえられたことが、…
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連載10001回 流れ流されて四〇年 <2>
(昨日のつづき) 「流されゆく日々」というタイトルについては、これまで何度も書いた記憶がある。 私の記憶に残っていたのは、石川達三さんが(たしか「新潮」だったと思う)当時、連載されていたエッセイ…
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【特別再録】 <なしくずしの死>の終り <音楽、86年>
「阿部薫って誰ですか」 と、昭和三十七年うまれの編集者がきく。彼が阿部薫を知らないのは当然だろう。彼がゲバ棒のかわりにサックスをかかえて登場したのは、五月革命がドゴールの勝利に終って、パリのヒッピ…
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【特別再録】 記憶の中のカヤカベ教 <シャドー文化、83年>
戦後、朝鮮から引揚げてきて、両親の実家にしばらくいたことがあるのですが、そのとき何度か、〈カヤカベ教〉という言葉を耳にしたことがあった。 両親の実家は熊本県と福岡県の県境にあり、あの地域は農村と…
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【特別再録】 信仰と政治のはざまに <宗教、81年>
浄土真宗という宗教は、差別への鋭い目を向けてきた宗教だと思うんです。宗教そのものの本質的な問題として、差別ということを考えてきたのが浄土真宗という宗教であり、だからこそ時の権力者たちは浄土真宗に危険…
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【特別再録】 深夜に中世の闇を思う <歴史、80年>
中世の日本人たちは、その後の徳川時代を経た日本人とはちょっとちがうような気がします。中世の人々は、ひとことで言うととても複雑なんです。そして、ダイナミックです。 政治の残酷さというものをよく知っ…