五木寛之 流されゆく日々
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連載9984回 古くなるほど新しい <4>
(昨日のつづき) NHKラジオの『ラジオ深夜便』で、番組を持ってから10年以上たったような気がする。 最初は『わが人生の歌がたり』というタイトルで、かなり長く続けた。自分の生まれた昭和7年ごろ…
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連載9983回 古くなるほど新しい <3>
(昨日のつづき) 若い頃、着るものを毎年あつらえて作ってもらっていた事があった。 洋服の上衣とか、ジャンパーとかは、すべてレディー・メードのものを着ていたから、ショップで買っていた。ただし、ズ…
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連載9982回 古くなるほど新しい <2>
(昨日のつづき) 先日、集英社から『裸の町』の再校ゲラが届いた。同社から出ている『冒険の森へ』シリーズの第6巻に再録されることになったため、一応、念のために目を通し、いくつかの訂正や加筆を加えた草…
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連載9981回 古くなるほど新しい <1>
たしか星新一さんではなかったかと思うけど、さだかではない。故人となられた先輩作家が、こんなことを言われていた。 「私はその時代の風俗とか、流行語などを、できるだけ作品中に使わないようにしている。な…
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連載9980回 言葉が死語になるとき <5>
(昨日のつづき) 死語となった言葉もそうだが、このところ同世代のオピニオン・リーダーたちが相いついで故人となった。 『きのうの続き』の録音版を聴き返してみると、永六輔も大橋巨泉も、声そのものが溌…
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連載9979回 言葉が死語となるとき <4>
(昨日のつづき) 死語というわけではないが、歳月とともに意味が伝わらなくなった言葉というものがある。 たとえば、「きのうの続き」。 1950年代の終り頃、首都圏に最後の民放ラジオ局が開局し…
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連載9978回 言葉が死後となるとき <3>
(昨日のつづき) 死語といえば、最近めったに耳にしなくなった言葉が「学問」という単語だ。 『学問のすすめ』は、出世するためには学問が必要だと説いて、当時の青年たちの心をふるい立たせた。 受験…
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連載9977回 言葉が死語になるとき <2>
(昨日のつづき) 「トシマって字を書けるかい」 ある大学生にきいたら、ニヤリと笑って、 「こうですか」 と〈年魔〉という字を書いてみせた。もちろん洒落である。しかし、なんとなく実感があって…
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連載9976回 言葉が死語になるとき <1>
先日、ある場所でご婦人がたとお喋りしていたら、一人の女性がこう言われた。 「イツキさんは、おぐしもまだちゃんとおありになって、よろしゅうございますねえ」 一瞬、なんのことだろうとキョトンとして…
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連載9975回 老いの自覚について <5>
(昨日のつづき) 脚が不自由になってから、周囲の人びとの様子がしきりに気になるようになってきた。 あらためて街を行く人を眺めていると、脚の不自由な人がやたらに多いことに気づく。杖をついている人…
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連載9974回 老いの自覚について <4>
(昨日のつづき) 元気で、いつまでも若々しく、というのが老人の理想像のように語られてきて久しい。テレビの番組なども、80歳を過ぎてポルシェを運転する老人や、スポーツ大会に若者と共に参加する高齢者を…
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連載9973回 老いの自覚について <2>
(昨日のつづき) なんともいたましい事件が起きた。相模原の障害者施設で19人が刺殺され、20人が重傷をおったという。 殺人未遂で逮捕されたのは、施設の元職員だったというから事態は深刻だ。犯人は…
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連載9972回 老いの自覚について <2>
(昨日のつづき) 午後、雑誌『週刊ダイヤモンド』のインターヴューのゲラと写真を返却。 『週刊ダイヤモンド』の取材とあって、社会問題とか、そんな話だろうと予想していた。いわゆる専門家や学者の意見は…
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連載9971回 老いの自覚について <1>
未曽有の高齢社会がやってくるという。統計の数字を参考にするまでもない。数百万の団塊の世代が、いっせいに高齢化するのだから当然だろう。 子供や若い人は減っていく。老人が激増する。当然のことながら、…
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連載9970回 永六輔の残したもの <4>
(昨日のつづき) 永さんは途中からテレビの世界に疲れたのだろうと思う。秒単位で仕事が進む状況では、たぶん自分の考えていることを十分に語りきれないと感じたにちがいない。 その点、ラジオはより個人…
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連載9969回 永六輔の残したもの <3>
(昨日のつづき) 本番開始前に、少し緊張しようと気持ちを引きしめる。半世紀以上も放送の仕事にたずさわってくると、テレビや録音の収録に慣れっこになってしまって緊張感がなくなるのだ。「五秒前、四、三、…
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連載9968回 永六輔の残したもの <2>
(昨日のつづき) 本日(19日)、午後6時からNHKラジオのスタッフとの打合わせ。ラジオ深夜便『聴き語り――昭和の名曲』の次の構成についての会議である。 会議といっても、固苦しい討論ではない。…
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連載9967回 永六輔の残したもの <1>
今日、というのは7月19日、連休明けの火曜日ということだが、今日の夜、10時からのNHK『クローズアップ現代』に生出演することになった。 急な出演依頼だったのは、たぶん本命の出演依頼者が出られな…
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連載9966回 ある大学生との会話 <5>
(昨日のつづき) 「大学を出て、一応ちゃんとした企業に就職して、停年まで働いて、その後はどう考えてるんだい」 「そんなこと考えちゃいませんよ。だって、これから30年も40年も後のことじゃないですか…
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連載9965回 ある大学生との会話 <4>
(昨日のつづき) 「イツキさんぐらいの歳になると、世の中の動きがあまり気にならないんじゃないですか」 「それはどういう意味だい。そろそろあの世行きの事ばかり考えてるというのかね」 「いや、そんな…