本の森
-
「『自分らしさ』と日本語」中村桃子著
自分のことを指す自称詞は、英語では「I」ひとつだが日本語には「わたし、あたし、ぼく、おれ」などいくつもある。この自称詞の多さは語彙の豊かさとみられる半面、制限される面も出てくる。例えば「わたし、あた…
-
「虫たちの日本中世史」植木朝子著
世界を覆う腐海から瘴気(しょうき)が立ち上りマスクなしでは生きられない――コロナ禍の現在を予見したとして「風の谷のナウシカ」、ことに文明が崩壊した後の世界観がより強く打ち出されたマンガ版の再評価が高…
-
「日本外食全史」阿古真理著
現今のコロナ禍においてもっとも深刻なダメージを受けているのは外食産業だ。2020年の1年間に倒産した飲食店は780件と過去最高。売り上げは前年比84・9%、中でもパブ・居酒屋は50・5%と半減。 …
-
「調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝」近田春夫著 下井草秀・構成
近田春夫に冠される肩書というとミュージシャン、作曲家、音楽プロデューサー、音楽評論家、タレント、さらには大学の元特任教授なども加わり、文字通りマルチに活躍する才人である。常に新しいことに挑戦している…
-
「『顔』の進化」馬場悠男著
顔とは「身体の部分(器官)のうち目、鼻、口、耳などが集まっている領域」である。その定義でいえば、イヌ、ネコ、スズメやカラス、その他ヘビやカエル、マグロなどにも顔があるといえる。しかし、クラゲ、ヒトデ…
-
「かぐわしき 植物たちの秘密」田中修、丹治邦和著
3度目の緊急事態宣言が出ている現在、道行く人のほぼ100%がマスクをつけている。新緑のこの季節、マスクのせいで若葉の香りを嗅ぐことができないのはなんとも残念。動くことのできない植物は、香りを使って虫…
-
「ぼくがアメリカ人をやめたワケ」ロジャー・パルバース著 大沢章子訳
人生のほとんどを生まれた国で暮らし、外国語を話すこともなく、見ず知らずの他人ばかりの世界で運試しをしようともしない人生とは、どんなものだろう? こう語る著者は文字通り、世界中を股にかけて活躍する作家…
-
「地球に月が2つあったころ」エリック・アスフォーグ著 熊谷玲美訳
今年の初めに高山宏訳の「ガリヴァー旅行記」が刊行され、昨年6月から朝日新聞で柴田元幸訳の「ガリバー旅行記」の連載が始まった。300年前に英国で書かれた風刺小説がくしくも英米文学の泰斗2人が共に訳すと…
-
「アーミッシュの老いと終焉」堤純子著
1985年に公開されたハリソン・フォード主演の映画「刑事ジョン・ブック/目撃者」は、殺人事件を目撃した母子を主人公の刑事が犯人たちの手から守るというサスペンスドラマだ。母子はアーミッシュというプロテ…
-
「あなたはこうしてウソをつく」阿部修士著
井上ひさしは大学時代にアルバイトの仕事と学校のテストがよく重なり、そのたびにテストが受けられない理由を捻出していた。自分の病気、母の危篤、父の法事に始まり、そのうち遠い親類にまで葬式をでっち上げてい…
-
「石を放つとき」ローレンス・ブロック著 田口俊樹訳
「昔より歩く速度が遅くなった。体への負担も多くなった。昔は体力などというものは無尽蔵にあるように思っていたものだが。それが途中で休む場所を捜すようになった」 そう嘆くのは私立探偵マット・スカダ…
-
「女の子はどう生きるか」上野千鶴子著
1937年に吉野源三郎が書いた「君たちはどう生きるか」は近年マンガ化もされ、80年以上読み継がれているロングセラーだ。吉野の本を読んだ著者は、感動したものの「なんだか釈然としない気持ちが残った」とい…
-
「完全版 チェルノブイリの祈り」スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著 松本妙子訳
東日本大震災から10年。福島の原発事故が発覚した直後、チェルノブイリの事故とはレベルが違うので安心するようにとの言説があったが、その後、チェルノブイリと同等のレベル7に引き上げられ、改めて事故の深刻…
-
「カンマの女王」メアリ・ノリス著 有好宏文訳
見れる、食べれるといった「ら抜き言葉」はすでに市民権を得た感があるが、テレビのテロップに「~にも関わらず」(にも拘わらず)、「~に例える」(喩える・譬える)などの本来とは異なる表記が出てくるとどうも…
-
「ルポルタージュ イスラムに生まれて」読売新聞中東特派員著
五輪組織委会長森喜朗の女性蔑視発言は、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治などの自由をうたったオリンピック憲章に反するものとして激しく批判された。しかし本書によると、厳格なイスラム主義を奉…
-
「生と死を分ける数学」キット・イェーツ著 冨永星訳
「数学」と聞いただけでアレルギー反応を起こす人も多いが、実は我々の日常生活において数学は意外に深く関わっている。遺伝子の欠陥によって体が不自由になった患者、誤ったアルゴリズムのせいで破産した企業経営者…
-
「非国民な女たち」飯田未希著
「ぜいたくは敵だ」「パーマネントはやめましょう」といった標語が掲げられた戦時期の日本女性といえば、真っすぐな髪を後ろで束ねモンペをはいた姿が思い浮かぶ。戦時体制の下、世を挙げて華美なファッションが忌避…
-
「『色のふしぎ』と不思議な社会」川端裕人著
学校健診でかつて行われていた色覚検査は差別につながるということで2003年に事実上廃止されたが、15年ごろからほぼ復活している。「児童生徒が自身の色覚の特性を知らないまま不利益をうけることのないよう…
-
「HANDS 手の精神史」ダリアン・リーダー著 松本卓也ほか訳
電車内でスマホの画面をいじっている姿はすっかり馴染みの光景となった。そこで目につくのはしきりに画面をタップしたりスクロールしている手の動きだ。こうした動きは以前になかったもので、現代の若者の中には紙…
-
「旅ごころはリュートに乗って」星野博美著
リュートは洋梨を縦に割ったような、丸っこい形をした複弦の撥弦楽器。ルネサンス期には「楽器の女王」と呼ばれ、ヨーロッパ各地で愛好された。天正遣欧使節について調べているうちに、日本に戻った同使節が豊臣秀…