「時計遺伝子 からだの中の『時間』の正体」 岡村均著

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 夜になれば自然と眠くなり、朝になれば自然と目覚める。これは、暗くなったから寝る、明るくなったから起きるという外の環境の変化の結果のように思えるが、そうではない。実は、我々の体の中にはすでに1日24時間のリズムがインストールされていて、体内で時間が刻まれているからだという。

 この24時間周期のリズムは27億年前に出現した生物がすでに持っていて、現存する地球上のほとんどの生物が共通して有している。その鍵を握るのが「時計遺伝子」だ。1971年にショウジョウバエにこの遺伝子があることが発見された。97年にはショウジョウバエと同じ時計遺伝子が哺乳類にもあることが判明。著者は、それを発見した研究グループに参加していた時間生物学を専門とする研究者だ。

 本書は時計遺伝子がどのように働いて体の中の時間を生み出すかの仕組みを詳しく解説すると共に、時計遺伝子がつかさどる生体リズムの異常から生じる睡眠障害や生活習慣病の治療についても紹介する。

 人類はこれまで夜は暗いのが当たり前としてきたが、現在では「明るい夜」という新たな環境が生み出されている。深夜にコンビニに行くと元気になるのは、店内を照らすLED照明と生体リズムの関係によるものだという。また、短時間に長距離を移動するというのもごく最近の現象で、時差ボケも「地球上のあらゆる生物が経験したことのない異常な環境変化」による体内リズムのズレから生じているのだ。

 そのほか、高塩分による高血圧に時計遺伝子が関わっていたという事実や、時計遺伝子を取り除いたマウスの実験による睡眠リズムの研究から睡眠障害治療の新薬の可能性もあるなど、興味深い新知見が次々に示されていく。

 これら生体リズムをつかさどるのは、網膜の奥にある直径わずか2ミリの2対の視交叉上核という神経細胞。ここを舞台に生体リズムという大きな謎に迫っていく。 〈狸〉

(講談社 1100円)

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