本の森
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「地下出版のメディア史」大尾侑子著
野坂昭如の「好色の魂」は「好色出版の帝王・貝原北辰」を主人公にした長編だが、そのモデルは、大正末から昭和初期にかけてのエロ・グロ・ナンセンス文化を領導した出版人・梅原北明だ。 「昭和初期を荒れ…
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「薬草ハンター、世界をゆく」カサンドラ・リア・クウェイヴ著 駒木令訳
本書の副題は「義足の女性民族植物学者、新たな薬を求めて」。ベトナム戦争に従軍した著者の父は、米軍が散布した枯れ葉剤を浴び、第1子の著者は先天性の骨格異常をもって生まれ、3歳で右下腿を切断、以降義足を…
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「〈洗う〉文化史」国立歴史民俗博物館・花王株式会社編
経産省の調査によれば新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降、せっけん類の生産は増加しているという。しかし、逆に洗顔クリーム類は減少しており、これは化粧をする機会が少なくなってクレンジングな…
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「シカの顔、わかります」南正人著
宮城県牡鹿半島の先に浮かぶ小さな島、金華山。島には600頭ほどのシカが生息している。著者は、1989年から黄金山神社周辺で生活する150頭のシカ全部に名前をつけ、行動観察を始めた。以来33年間で約1…
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「戦時下の大衆文化 統制・拡張・東アジア」劉建輝、石川肇編
2019年10月現在、海外在留邦人は約141万人。対して、1945年前半にはおよそ200万人が中国大陸へ移住しており、これに100万人以上の軍人・軍属を加えると、当時の7000万人の国民人口中、20…
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「愛書狂の本棚」 エドワード・ブルック=ヒッチング著 髙作自子訳
2002年、グーグルは現存するありとあらゆる紙の出版物を電子化するプロジェクトをスタートさせた。そこで発表された現存する紙の本の総数は1億2968万4880冊(2010年)。過去に失われたすべての本…
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「飛ばないトカゲ」小林洋美著
現在、世界では毎年160万件ほどの自然科学系の論文が発表されている。そうした論文の中には思わず「へえー!?」とうなってしまうような不思議な研究もある。 「論文のソムリエになりたい」という著者が…
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「あの図書館の彼女たち」ジャネット・スケスリン・チャールズ著 髙山祥子訳
パリのアメリカ図書館は、第1次世界大戦中にアメリカの図書館から戦地の兵士たちに送られた多数の本を基に創設された図書館で、英語の書籍や定期刊行物を提供する、アメリカ文化の情報発信基地だ。1920年創設…
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「ハレム」小笠原弘幸著
昨年末、政府の有識者会議は皇室継承の在り方についての最終報告書で、女性皇族が結婚後も皇室に残る、皇族の養子縁組を可能にするという2案を提示した。日本の皇室のみならず世襲君主制を採用している国では、い…
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「『欲しい!』はこうしてつくられる」マット・ジョンソン、プリンス・ギューマン著 花塚恵訳
スマホの普及ならびにコロナ禍の影響により、2020年の日本のネット通販市場は12兆円を超えたという。通販サイトには多種多様な商品が陳列されており、消費者はそこから欲しいものを自分で選んでいると思って…
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「老子探究」 蜂屋邦夫著
「求めない──すると簡素な暮しになる」「求めない──すると心が静かになる」「求めない──するとひとから自由になる」……印象的なリフレインでつづられる加島祥造の「求めない」(2007年)は、詩集としては…
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「ゾウが教えてくれたこと」入江尚子著
野生のアフリカゾウは100年前の1000万頭から現在の35万頭と、97%も激減、このままでは近い将来野生のアフリカゾウは絶滅する危機に陥っている。激減の理由の一因は象牙獲得のための密猟で、1980年…
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「ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級」新井潤美著
19世紀のヨーロッパ小説、とくにイギリス小説を読むときに欠かせないのは階級意識だ。貴族が属するアッパークラスから一般の労働者が属するワーキングクラスまで、階級によってその所作から言葉まで異なり、その…
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「物価とは何か」渡辺努著
ロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰などもあり、新年度に入ってから日用品や食料品の値上げが相次いでいる。近年の日本はデフレ傾向にあり、このところの消費者物価指数は1%前後を推移していたが、パン…
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「悪い言語 哲学入門」 和泉悠著
先のアカデミー賞授賞式で、主演男優賞を受賞したウィル・スミスが妻の髪形をジョークにされたことに怒って、プレゼンターのクリス・ロックを平手打ちにしたことが話題となった。本書にはショーペンハウアーの「騎…
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「清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?」池内了著
清少納言が生きていたのはおよそ1000年前。オリオン座のβ星リゲルまでの距離が850光年だから、清少納言の少し後にリゲルから放たれた光を、今我々が見ていることになる。「枕草子」に「星は すばる。ひこ…
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「恥のきずな」カルロ・ギンズブルグ著 上村忠男編訳
ミクロヒストリア(小さな歴史学)と呼ばれる、小さな共同体やある個人に焦点を当てた新しい歴史学の動きが出てきたのは1970年代からだが、その代表的な著作がカルロ・ギンズブルグの「チーズとうじ虫」(19…
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「菌類が世界を救う」マーリン・シェルドレイク著、鍛原多惠子訳
多細胞生物の大きなグループとして、動物界、植物界、菌界の3つがある。本書の副題に「キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力」とあるように、菌界に属する菌類の代表的なものがキノコ・カビ・酵母である。世界には…
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「すごいトシヨリ散歩」池内紀、川本三郎著
ドイツ文学者でエッセイストの池内紀が亡くなったのは2019年8月30日。享年78。2016年3月から亡くなる直前まで3カ月に1回、評論家の川本三郎と対談を行い、それをまとめたのが本書。4歳下の川本に…
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「アウシュヴィッツ生還者からあなたへ」リリアナ・セグレ著 中村秀明訳
鶴見俊輔が「思想の科学」誌上で「語りつぐ戦後史」という対談企画を始めたのは1967年のこと。戦争体験を「語りつぐ」試みのかなり早い例だろう。76年には戦後生まれ人口が戦前生まれ人口を初めて上回り、現…
