「離婚の文化人類学」アリソン・アレクシー著 濱野健訳

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 日本人の離婚率は1990年代に入って増加の勢いが増し、2002年の2.3%をピークに漸減、現在は1.6%前後となっている。婚姻件数と離婚件数の比率はおよそ35%前後、3組に1組が離婚していることになる。かなり多いように思えるが、世界各国の離婚率でいうと、真ん中よりやや下といったところだが、90年代以降、離婚が大きな社会問題となってきた。

 本書は、2005年から13年にかけて、実際に離婚の問題に関わっている男女の聞き取り調査をし、現代日本の離婚について人類学的な観点から考察したものだ。

 著者が、戦後日本の女性の権利意識や結婚生活と親密性の変化の兆しとして取り上げるのは熟年離婚だ。従来の日本では、夫が妻に離婚を申し出て、女性がそれを拒むというのが一般的だったが、90年代以降は、長年連れ添った妻が離婚を切り出して夫がそれに慌てふためくというパターンが多くなる。その背景としては、終身雇用制の終焉、バブル経済崩壊後の長引く不況、さらには新自由主義による「自己責任」論などが挙げられている。

 著者がもう一つ注目するのは、親権に関する法制度だ。現在の日本では、子を持つ親が離婚する場合、共同親権を選択することができず単独親権しか認められていない。そのことでさまざまな問題が引き起こされるのだが、著者は、元夫婦がそれぞれ柔軟に対応して「事実上の共同親権」を運用している例も多く、別れた家族をつなぐ有効な手段だとみている。同様に、離婚によってきっぱりと縁を切るのではなく、離婚後も緩やかな関係を維持し、互いに新しい人生をスタートさせている事例を紹介して、離婚が決してマイナスばかりでないことも強調している。

 異国の女性研究者という立場を有効に使いながら、日本人相手には明かさなかったろう男女の本音を引き出し、現代日本社会の姿を鮮明に描いていく手腕は見事。 <狸>

(みすず書房 5280円)

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