「サイレント・アース 昆虫たちの『沈黙の春』」デイヴ・グールソン著 藤原多伽夫訳

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 2000年ごろから地質年代の新しい区分として「アントロポセン(人新世)」という言葉が提唱されるようになった。人間の活動が地質環境に大きな影響を与えている時代のことだが、著者はその特徴のひとつに生物多様性の喪失の加速を挙げている。事実、1970年から2014年までの間に世界の野生の脊椎動物の個体数が6割減ったと推定されている。

 しかし、さらに激しい変化がひっそりと進行している。無脊椎動物の中核をなす昆虫の減少だ。ドイツの自然保護区では1989~2016年で昆虫の捕獲量が実に76%も減少したという。本書は、サブタイトルの“昆虫たちの「沈黙の春」”が示すように、昆虫の減少している原因と減少を食い止めるための方策や提言をまとめた警告の書である。

 マルハナバチの生態研究と保護を専門とする著者は、まず人類の生活や地球の生態環境にとって昆虫がいかに重要な役割を果たしているかを説く。今後の人口増加においては、従来の家畜に代わってより持続可能な昆虫食の普及は大きな課題となることは間違いない。また植物の受粉における花粉運びのほとんどすべてを昆虫がになっている。もし昆虫が激減したら膨大な数の植物種が結実できずに死滅してしまう。そんな近未来のディストピア的な光景をSF仕立てで示してみせる。

 近年、世界的に昆虫が減少した原因について、著者は生息域の喪失、多様な農薬の慢性的な暴露、養蜂の巣における外来の感染症の蔓延、気候変動などを挙げ、これら人為的な負荷の組み合わせが原因だとして、それぞれの要因を詳しく解説していく。中でも植物のあらゆる部位に浸透するネオニコチノイド系農薬に関しては多くのページを割き、この農薬の危険性に警鐘を鳴らしている。

 レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で農薬などの生態系に及ぼす危険を示してから60年。春の声を取り戻すためにも、本書の役割は大きい。 〈狸〉

(NHK出版 2750円)

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